伊坂幸太郎『砂漠』

砂漠

砂漠

どちらかと言えば目立った特徴のない主人公と、ちょっと変わった一癖ありそうな友人たちが、恋や友情や社会の難しさと向き合いながら共に成長する――というストーリーは、青春モノの「王道」と言えるかもしれない。本書も、その王道的な構造を踏襲している。超能力が使える友人、世界平和を祈るために麻雀で「平和(ピンフ)」を上がろうとする友人、恐るべき軽薄さで入学早々コンパやナンパを繰り返してホスト連中にまで疎まれる友人、モデル顔負けの美貌を持ちながら言い寄る男どもを片端から撃沈させる友人……と、一癖二癖ある友人が勢揃いである。突飛なキャラが多いのに、それほど気にならないのは、キャラクターに魅力があり、愛すべき存在だからであろう。
逆に気になったのは、「なんてことは、まるでない。」という茶化した文章(あるいは冷やかしめいた文章)が地の文で頻出すること。それが繰り返されるにつれ、「若者めいた軽薄さ」も「現代的な白けムード」も「茶目っ気」も醸し出すことなく、ただただ寒くなってしまったのが、少し残念だった。しかしそれも些細なことではある。青春小説として非常に面白いと思う。
ちなみに本書は「春」「夏」「秋」「冬」「春」という章立てで物語が進むのだけれど、この構成というか時間軸が、ちょっと面白い。ネタバレ(というほどでもないが)してしまうのでこれ以上は書けないけれど、本書を読まれた方は、気づいたときにニヤリとして下さい。