幸村誠『プラネテス』4巻

プラネテス(4) (モーニング KC)

プラネテス(4) (モーニング KC)

週刊モーニングで不定期連載された、2070年代が舞台のSF漫画。宇宙資源を求めて宇宙に進出した人類は、エネルギー問題や国家間格差・ゴミ問題など、20世紀の経験を生かすことなく同じ愚を繰り返している。それでも今さら宇宙開発をストップすることはできない。主人公のハチマキの仕事はデブリの回収作業(デブリ屋)だ。ハードで危険な仕事だが、宇宙開発のためには絶対に必要な仕事であり、仲間も良い奴らだ。給料も良く、いつか宇宙船を個人所有することを夢見ているが、それでもなお今の給料では宇宙船の個人所有など難しい。宇宙(そら)でも地球(おか)でも、人間の悩みやエゴは変わらない。ハチマキは夢と現実と大義に追い立てられながら生きている――といった設定。
ハチマキは3巻のラストで、宇宙とは何か、自分とは何か、といった無限の葛藤から抜け出ることに成功する。ついでにタナベと結婚することにも成功する。ハチマキは宇宙と自分をめぐる葛藤に一段落をつけたため、第一部完結となる4巻では、むしろハチマキ以外のキャラクターに多くのスポットが当てられている。自分を「レティクル座」人だと名乗って他人からホラ吹きの変人呼ばわりされているロカビリー頭、通称・男爵。タナベが乗っている(そしてハチマキが乗っていた)宇宙船の女船長・フィー。木星往還船フォン・ブラウン号のエンジンを設計したロックスミス。ハチマキの乗り込んだ木星往還船フォン・ブラウン号の船長。どれもこれも主人公に負けず劣らずの個性を持ったキャラクターである。
フォン・ブラウン号の船長は、小説を書いていたことがあるが、面白くなく、また(何より不憫なことに)ハンパに目が肥えている。それでいて人の評価がすご――く気になる気の小さいタイプ。しかし木星到着時のスピーチを引き受けたばっかりに、持病の胃痛が悪化してドクターストップ。ハチマキが木星到着時のスピーチを行うことになる。このスピーチが、なかなか良い。自問自答や逡巡を経ているからこそ言えるセリフである。
4巻は、3巻までと少し話作りというか傾向が変わっている。ネットで見たレビューの中には「作者に迷いがあるのでは」と書く評者もいたが、確かにそんな感じもする。ただ、それを含めてもなお『プラネテス』は傑作だし、最後のスピーチは感動モノだ。最近は宇宙モノの漫画に良作が多いが、本作はその中でもトップランナーと言って良い。必読。