関岡英之『なんじ自身のために泣け』

なんじ自身のために泣け

なんじ自身のために泣け

高校生の頃から出版前までの20年ほどの間に旅をした、中国・ベトナムカンボジア・インド・イラン・サウジアラビアなどの国々で著者が見聞きしたことを書き留めた本。本書が面白いのは、いわゆる「バックパッカー」的な旅行記とは全く異なることである。
著者は高校生だった1979年に(まだ人民服で溢れていた)中国を初めて訪れているが、そもそも著者が中国に興味を持ったのは、中国がいずれ大きなパワーを獲得するだろうから、今のうちに中国や中国語に精通しておけば就職にも有利になるだろう――という(高校生らしからぬ)功利的な面からだそうだ。ただ自らの功利的な側面を自覚しながらも、他人を押しのけて競争するようなパワー・エリート的気質は全然なく、本当は職人が向いているだろうなと植木屋のバイトをするような大学生だったそうだ。
結局、慶応大学の法学部を卒業して職人になる勇気はなく、中国語のスピーチで表彰されるなど着々と就職活動の準備を行った末、都銀に就職し、花形の(しかし本人の希望した中国関係では全然ない)ディーリングルームに配属される。バブルに沸く1980年代のディーリングルームで利ざや稼ぎに奔走する毎日に面白みを感じる一方で、熱病に浮かされたように、仕事の合間を縫って1週間なり10日なりといった期間で外国を訪れたり、仕事として中国に配属されたりしている。その「功利的な側面」と「アジアや中東といった非欧米圏に否応なく惹かれる気持ち」の揺れ動きが素直に書かれている。
ちなみに著者は現在、都市銀行を退社し、今は反米の論客としてけっこうブイブイ言わせているらしい。機会があれば他の本も読んでみようかな。