細野不二彦『ギャラリーフェイク』3巻

ギャラリーフェイク (3) (ビッグコミックス)

ギャラリーフェイク (3) (ビッグコミックス)

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 驕れる円空
ART.2 質屋とマティス
ART.3 モンパルナスの“秘宝”
ART.4 アレゴリー(寓意)のある風景
ART.5 海底に眠る夢
ART.6 浮世絵の魔力
ART.7 林檎を持つ女神(ヴィーナス)(前編)
     林檎を持つ女神(ヴィーナス)(後編)
ART.8 国宝の守り人

どのエピソードも魅力的なのだが、俺は表題作「林檎を持つ女神(ヴィーナス)」が特に好きだ。フジタはミロのヴィーナスを芸術としては「二級品」だと断ずるが、ではミロのヴィーナスは何故ここまで人を魅了してやまないのか。三田村館長との関係性も含めて非常に面白いエピソードである。「驕れる円空」も面白い。円空の生まれ変わりだという男が登場するのだが、ソイツの考え方がなかなか興味深いのである。
なお、隻眼のトレジャーハンターにしてフジタの腐れ縁であるラモスや、独自の正義感から重要な文化財を片っ端から国宝指定して国で召し上げる通称国宝Gメンの知念護人といった主要キャラは、この巻で初登場する。このラモスというキャラクターは『ギャラリーフェイク』の魅力的なキャラクターたちの中でも特に好きな人物である。フジタと似た者同士というか、がめついのに憎めない。