細野不二彦『ギャラリーフェイク』5巻

ギャラリーフェイク (5) (ビッグコミックス)

ギャラリーフェイク (5) (ビッグコミックス)

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 翡翠(フェイツイ)の店(前編)
     翡翠(フェイツイ)の店(中編)
     翡翠(フェイツイ)の店(後編)
ART.2 レンブラント委員会の挑戦
ART.3 イングランドの根付
ART.4 ペルシャの秘法(前編)
     ペルシャの秘法(後編)
ART.5 学芸員物語
ART.6 『道成寺の怪』
ART.7 わが谷は灰色なりき

最も好きなのは、表題作「ペルシャの秘法」である。フジタは、既に技法が途絶えてしまい「幻のやきもの」と呼ばれるラスター彩陶の調査のため、サラの故郷でもあるQ首長国Wikipediaによるとクウェートがモデルとのこと)に旅立つ。しかしフジタは思わぬトラブルに巻き込まれ、ラスター彩陶を自分の手で作れなければフジタは生きて帰れないことになる。サラはフジタを助けようと――というアウトライン。ラスター彩陶という素材自体が悩ましいほどに魅力的だし、それをフジタとサラの淡いエピソードでくるむ細野不二彦の手技は、もう名人の域である。
なお、主要キャラである宝石専門の女泥棒の翡翠(フェイツイ)と翡翠の部下の瑪瑙(メノウ)は、この巻で初登場する。翡翠のサディスティックな女っぷりはイカす。逆に瑪瑙のキャラ設定も実にオイシイ。