細野不二彦『ギャラリーフェイク』14巻

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 サラと知念と
ART.2 税金天国
ART.3 罪深きヴァンゲリス
ART.4 高麗李朝
ART.5 地蔵現る!
ART.6 放蕩息子の帰還(前編)
     放蕩息子の帰還(後編)
ART.7 人形は見ていた
ART.8 波天奈の茶碗

「地蔵現る!」は、フジタの宿敵(?)とも言える地蔵大作の初登場するエピソードである。地蔵は一流料亭の主人で、一流品を見る目もあるのだが、3回に1回くらいはクズも掴んでしまう。フジタはそれを知っていて「騙される方が悪いのだ」と騙す。一方、地蔵はフジタの力を非常に買っていて、またフジタが裏の世界で生きることを心苦しく思っている。地蔵は今回、フジタを日の当たる世界に連れて行きたいと、ギャラリーフェイクをたたんで新しい店を出すことを提案する。要は「良い人」なのである。彼を慕う人も多い。しかしフジタにとっては「大きなお世話」であり、かくしてフジタが地蔵を一方的に蛇蝎のごとく嫌い、地蔵は嫌われてもフジタを日の当たる世界に引き上げようと苦心する、という奇妙な関係が始まるのである。しかしアレだ、地蔵は良い人すぎて胡散臭いね。