- 作者: 細野不二彦
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/10
- メディア: コミック
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この巻には以下のエピソードが収録されている。
ART.1 天国の窓
ART.2 草原(サバンナ)の巨匠
ART.3 タイムリミット
ART.4 シカゴ「アンダーグラウンド」ブルース
ART.5 ニンベン師
ART.6 落水荘異問(前編)
落水荘異問(後編)
ART.7 始祖鳥第三標本
ART.8 仁王見参
表題作「ニンベン師」はキャラクターも相まって非常に面白い。「ニンベン師」とは、「偽」という漢字の左側(へん)から来た名称で、書類や身分証の偽造を生業とする裏世界の住人だ。ここで登場するニンベン師の木戸は超一流のニンベン師だが、超一流が故に最近は偽造を見破られることもなく、「勝つと決まったゲームぐらいつまらないものはありませんね。情熱ってモンが失せてゆくんですよ。情熱が失せたらミスを犯す可能性もある」と、引退を考え始める。しかし、たまたま立ち寄った酒屋で自分の作った偽造ラベルがフジタに見破られるのを目の当たりにし、フジタに興味を持つ。木戸は、フジタにイッパイ喰わせてやるため、フジタが1億円なら売ると言ったクリムトの絵を偽札で買うことを考える――というアウトライン。紙幣というのは誰もが日常的に目にするものであり、また偽造防止の仕掛けが数多く仕掛けられているため、かなりリスキーな偽造なのだそうだが、失われつつある情熱を取り戻すため、偽札作りに初チャレンジするのである。ちなみに木戸は「婦警さんじゃないとイカない」という変わった性癖を持ち、イメクラでの取り調べプレイをこよなく愛しており、そこの風俗嬢とフジタに挑戦する。
この巻は他にも個人的に好きなエピソードが目白押しだ。例えば「天国の窓」は、ビル・ゲイツをモチーフにしたギル・ベイカーが、病に伏せる母のために「窓の絵」を探すというもの。その謎解きは本書に譲るとして、母を救った絵に描かれた「窓」から「ウィンドウズ」を考え出す――という仮説は粋である。また「タイムリミット」ではアール・ヌーヴォー期の天才ルネ・ラリックのコサージュ・ブローチ「蜻蛉の精」を背中一面に彫った女極道が登場する。また「シカゴ『アンダーグラウンド』ブルース」では、ラモスの妻「ぶったくりショーン」と娘が登場する。この女極道とショーンはどちらも魅力的なキャラであり、「さすが細野不二彦」といったところだろうか。