細野不二彦『ギャラリーフェイク』16巻

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 わたしを宇宙へ連れていって
ART.2 花と器(前編)
     花と器(後編)
ART.3 革命に死す
ART.4 草原のブッダ
ART.5 黒い画商たち
ART.6 かくも長き不在
ART.7 生贄
ART.8 この胸にときめきを

表題作「花と器」が面白い。例によって地蔵に突っかかるフジタは、話の流れから、地蔵の家に代々伝わる牧谿もっけい)の掛け物を賭けて勝負することになる。フジタが負けても差し出すものはないようだが、まあそれはそれ、プライドを賭けての勝負である。フジタは、向日葵(ヒマワリ)を生けることにする。そして日本史上最も初めに花を生けたのはいつの時代の人々だっただろうか、という仮説から器の準備に入る。一方、地蔵の方は、地蔵の下で働く使用人の黒川に勝負を任せる。黒川は、命を懸ける覚悟で地蔵の代理に名乗り出たのだから、“茶聖”利休の故事にならい、朝顔を生けることを決意する――というアウトライン。お互いの気迫が見える、非常に刺激的な話。