石井裕之『一瞬で信じこませる話術 コールドリーディング』

一瞬で信じこませる話術コールドリーディング

一瞬で信じこませる話術コールドリーディング

催眠療法やオカルト・詐欺などで用いられる「コールドリーディング」という技術を一般向けに書き記した本とのこと。胡散臭いところも多々あれど、その多くは、非常に巧妙なコミュニケーション技術である。基本は、カマをかけて相手の反応を探り、情報を集めたり特定したりして「まるでこの人はまるで私のことを全て知っているんじゃないの?」なんて思わせる手口である。しかし実際は、カマかけに引っかかり、「情報を取られている」という意識を持つことなく、自分からペラペラ語っているのである。
たったそれだけ? と思う人もいるかもしれないが、基本原則が少ない分だけ、詐欺にも占いにも商談にも恋愛にも使える間口の広さを持っている上、コールドリーディングの手口は半端じゃないほど巧妙だ。それに「カマかけ」だから当然失敗することもあるのだが、その失敗をカバーしたり、さらに活用する手口も巧妙である。これ、素人が一読したくらいで活用できるとは正直あまり思えないが、プロがやったら、知らない人はかなりの確率で騙されそうだ。
代表的な概念やテクニックが幾つか紹介されているが、例えば「セレクティブ・メモリ」というものがある。俺の言葉でまとめるなら、人は目にしたり耳にした全ての情報を覚えておくわけではなく、気にかけていることや驚きを受けたことを、より強烈に記憶する、というものであろうか。記憶は、そのままの形で記憶されるのではなく、加工されて記憶される。恋人の誕生日を知った途端、時計をふと見ると、恋人の誕生日の数字が散りばめられた時間が多い……とかいうのは、典型的な記憶の加工である。要は、他の数字の時間の場合は気にならないので忘れており、恋人の誕生日の数字が入った時間だと思ったときだけ記憶しているから、そう思い込んでいるだけだ。部外者から見ると馬鹿らしいだけなのだが、しかし一旦「入り込んだ」状態の人は、容易に「これは恋のマジック?」などと思ってしまうだろう。
また「ストックスピール」というものも面白い。これは深いコールドリーディングの前段階で行い、誰にでも当てはまる事実を言ったり、曖昧な物言い/相反する物言いをすることで、これは自分のことを言ってるんだ、と思わせるテクニックである。

正直なところ、今のあなたの運勢は最高だとは言えません。思い通りに進まないことがいくつか残っているはずです。金銭的な問題もないとは言えません。しかし、運気はこれから上昇していくところです。

これなんかは典型的なストックスピールである。そもそも占い師や霊能者に相談に行く際に、運勢が最高の人などいないのである。何かしら思い通りに進まないことがあるから相談に行くのである。しかし、自分のことを知っていると驚き、知ってもらえたと嬉しくなり、しかも運気はこれから上昇していくと言われて哀しい人などいない。まあ誰にでも当てはまることだから、効果もそれほど強くないのだが、ここで情報を集めて、より具体的な物言いをすることで、相手を信頼させるという効果もある。
本書では、より深いテクニックとして、著者の名付けた「サトルネガティブ(SN)」「サトルクエスチョン(SQ)」「サトルプリディクション(SP)」というテクニックが紹介されている。また「ミディアム」という間接物を使ったリーディングや、ズームイン/ズームアウトといった通常のコミュニケーションスキルでも出てきそうなテクニックなど、どれも非常に巧妙である。ぜひ興味のある方は読んでいただきたい。