川上真史+齋藤亮三『コンピテンシー面接マニュアル』

コンピテンシー面接マニュアル

コンピテンシー面接マニュアル

ワトソンワイアットの人材・組織コンサルタントである川上真史と、ワトソンワイアットと組んでいるアセスメント系の人材会社の齋藤亮三による共著。「何ができる」「何を知っている」「何がしたい」を聞く従来型面接では、様々なテクニックや化かし合いが繰り広げられる(そしてお互いの不信感が醸成される)が、本書のテーマであるコンピテンシー面接では、ひたすら「何をしたか」を思い出しながら語ってもらう。手間はかかるが、成果を上げた過去の行動を詳しく見ていくことで、そうした過去の行動が再現性のあるものかどうか、将来的にも成果を上げることのできる人材かどうか、といったことを見極められる――といったものである。過去の事実に対しても「嘘」を語ることはできるではないかと俺は思うのだが、おそらく嘘が通用しないほど根掘り葉掘り聞かれることで、そういう人は結果的に嘘を取り繕うことができずに矛盾をさらけ出してしまう、ということだと思う。
川上真史と齋藤亮三は『できる人、採れてますか?』という、本書と同じくコンピテンシー面接をテーマとした本を書いている。内容としては、『できる人、採れてますか?』に比べ、本書はより実務家に向けて書かれている。発売当初に買ったときは正直あまりピンと来ず、本棚の奥で眠っていたのだが、いざ組織・人事系のコンサルティングファームに転職し、BEIのインタビューを手がけることになってから読み返したら、非常に勉強になるところが多かった。
ただ、中には「これ、教科書的には正しいけど……」というような箇所もある。例えば、「行動事実」を問うても、その人の「考え」だけが語られて「行動事実」が具体的に出てこないような場合に、「○○さんのそういった考えが発揮された事例はありますか?」と逆に聞き返すようなケース。これはやり方としては圧倒的に正しいのだが、俺も実際にやってみたところ、どうもその場の雰囲気が悪くなってしまった。
後で反省しつつ考えてみたところ、この人はいわゆる評論家タイプで、「考え」としては良いものを持っていたが、手や足は動いていない。要は「行動事実」がないから、事例を思い出せと言っても思い出せないのである。俺は初インタビューだったこともあり、行動事実の無い人に対して「事例を思い出してください」と杓子定規に何度も問いかけてしまったが、これは答えられない質問を繰り返したことになり、インタビューを受ける側としては大変な苦痛であったのであろう。このコンピテンシー面接という手法は、当然こういった「頭や口だけで、実際には行動していない」人を発見できるというメリットが大きい。だが、コンピテンシーの無い人や少ない人に対しても気分を害さないような配慮は必要だろうという風に感じたのである。
コンピテンシーの高い人に対しては、どんどん事例を深堀りして語ってもらえば良い(自分の成果を人に話せるのだから気持ちが良い)のであるが、そうでない場合にも俺のように杓子定規に対応すると、あまりインタビュイーに良い印象を与えない。本書のような採用面接などであれば良いのかもしれないが(本当か?)、例えば既存の社員に対するコンピテンシーの探索などを想定した場合、社員の中にはインタビュー実施前から内心「何でこんなインタビューをさせられるんだ」と思っていることも多々あるであろう。そのような人に対して答えられない質問を繰り返して印象を悪くすることは、得策とは言えまい。だから「行動事実」を問うても「考え」ばかりが出てくる場合は、ケースバイケースで判断し、「行動事実」を問うても「考え」を語ったという事実そのものから、その人にその考えに基づく行動事実は無い(=コンピテンシーが発揮されていない)と判断する――というような臨機応変な対応も必要なのかもしれないと思った。
もちろん上記の感想は、本書が間違っているというわけでは全然ない。本書は非常に良い本であると思うし、勉強させていただいた。本当に本書の内容を使いこなすには、読者の側にもそれなりのノウハウを必要とするということである。