なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか 人間の出会いが生み出す「最高のアート」
- 作者: 田坂広志
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2007/07/19
- メディア: 単行本
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しかし、面白い。
言葉遣いは独特だが、確かに頷ける部分もハッとさせられる部分も多い。
例えば「反面教師」という言葉について。
残念な考えや行動をしている人を見て「あの人物の姿を反面教師として、学ぼう。自分は、あの人物とは違う。決して、あのような姿は示さない」と思うことはよくある。しかし著者は、そのとき密やかなエゴに自分が支配され、他人を無意識に裁いてしまっているのだと喝破する。そして著者は指摘する。反面教師という言葉は「あの人物の姿を反面教師として、学ぼう。あの姿は、自分の中にも、ある。そのことを、あの人は、教えてくれたのだ」というように使うべきだと。
深い。
もうひとつだけ、心を揺さぶった箇所を引用したい。
ある日、若手社員が、やる気を出して、何かを提案してくる。
それを、どこか冷めて見る。シニカルに見る。
そして、その提案の問題点を、一つひとつ、理詰めで指摘していく。
若手社員は、反論できない。反論しても、論破される。
そして、この社員の中で燃え上がろうとしていた火は、消されていく。
あたかも、燃え上がりそうな火を消すとき、濡れた毛布を掛けるように。
それは、見事な「ウェット・ブランケット」。
このマネジャー、頭は悪くない。
むしろ、周りからも頭の良さは、認められる。
けれども、気がついていない。
自分心の奥深くに、何があるか。
「深い劣等感」
それがあることに、気がついていない。
特に、このマネジャーが、高学歴の場合は、なおさら気がつかない。
周りからは、「優秀」と言われ続けてきた。
特に「学歴社会」では、若い時代から、その評価を得てきた。
自分でも、表面意識は、「自分は優秀だ」と思い込んでいる。
だから、自分の心の奥深くに、気がつかない。
そこに、「深い劣等感」があることに、気がつかない。
では、なぜ、そのことが分かるのか。
なぜ、このマネジャーの心の奥底に、「深い劣等感」があることがわかるのか。
それは、このマネジャーの素朴な行動から、分かる。
「人を誉められない」
このマネジャーは、あまり、人を誉めない。
人を誉めることが、苦手。
なぜなら、人を誉めると、自分の心の奥深くの「劣等感」が刺激されるから。
だから、人を誉めたくない。
しかし、このマネジャーの表面意識は、そのことに気がついていない。
表面意識は、「自分は優秀だから、自分が誉めるに値する人間はいない」と思っている。
しかし、本当はそうではない。
このマネジャーの「無意識」の世界は、思っている。
「自分は優秀ではない」と思っている。
それが、深い「コンプレックス」になっている。
この逆説。
心の世界の、恐ろしい逆説。
改行と読点を抜くだけで本のページは3分の1になりそうな文体だが、文字通り、かなり「深い」ことが書かれていると俺は思った。自分が本当は優秀ではないという深い劣等感が、人の素朴な行動に表れる。これを認めるのは辛い。辛いが、マネジメントの深みは、ここからしか始まらないのかもしれない。