『ジャックジャンヌ』@Switch

ユニヴェール歌劇学校という、宝塚を思わせる専門高校。しかし宝塚は女性歌劇なのに対して、ユニヴェールは男性歌劇である。少年が男役と女役の両方をやる男性歌劇の専門学校に、16歳の女性主人公が性別を隠して入学する。そして他の少年たちや学校の仲間などと交流を深めながら、1年後の年度末公演で主役を掴み取るというアウトラインのアドベンチャーゲーム&リズムゲームである。

『東京喰種トーキョーグール』で知られる石田スイがガッツリ関わっているということで気になっていた……が、主人公が女性で男性歌劇の学校に入って友情や恋愛を育むという、どう考えても女性向けのゲームなので二の足を踏んでいた。けれど、男性主人公のゲームを女性がやることは一般的なことだし、女性が主人公だったり老人が主人公だったりする小説だってよく読む。そう考えるとプレアイブルキャラが男性だからと言って大した話ではないと思い、セールのタイミングで購入。

これめちゃくちゃ面白いよ?

凄いと思う点は2つあり、まずひとつは、登場人物が役柄を理解したり、一皮むけたりする度に、声優の声が凄まじく変わるのである。なるほど、俳優や声優はコンナ風に役柄を理解し、声の表情に反映させているのかと、めちゃくちゃ勉強になる。例えば、主人公が高校生ながら風俗嬢(正確には風俗嬢とは全然違うのだがとりあえずわかりやすくそうしておく)を演じるのだが、その風俗嬢の接客を、ただ演じているときと、プレイヤーの選択で「恋人のように」演じるときと、「友達のように」演じるときとで、セリフは同じなのに声が全く違う。あまりに声の表情が違っていて、声優にリスペクトを抱いてしまった。

もうひとつは、主人公やその仲間たちが抱える演者としての課題や葛藤が、おもくそ深いという点である。

例えば主人公、これは女性が女性であることを隠して男性歌劇の専門高校に入学するという設定で、自分が女性であることがバレないように、年5回ある公演(新入公演、夏公演、秋公演、冬公演、年度末公演)に出なければならない。と言っても主人公は顔も体格も声も女性っぽいので(当たり前だ、女性なのだから)新入公演では女性役を演じることになる。主人公は女性であることがバレてはならないから必死で女性っぽさを隠すが、演技が未熟であるが故に自然と女性っぽさが滲み出て、それが「新人離れしている」と評価を受けてしまう。こいつは才能があるということで、今度は演技の幅を広げるために、夏公演と秋公演では男役を演じることになる。そしてメキメキと演技力をつけていく。で、さらに演技の幅を広げるため、冬公演ではまた女性役を演じることになるのだが、主人公の演技力がなまじ上がってしまったため、女性であることがバレないように演じた結果、女性らしさを隠せてしまい、女性の登場人物としての魅力が出ないのである。新人公演の時の方が、演技力が未熟であったが故に、女性らしさを表現できてしまうという葛藤に苛まれることになる。主人公の演技力は冬時点で確実に上がっている上、本来は女性なので、女性を演じようとすれば女性らしさを出すことは当然可能だ。しかしそうすると、自分が女性であると気づく人が出るかもしれない……そういうジレンマだ。

ユニヴェールで知り合った同学年の男性の級友。彼は体格も大きく、明るく朗らかで、何とも言えない華があり、ジャック(男性役)という単なる男役ではなく、ジャックエースという男性役の主役になれる器がある。しかし彼は歌や演劇の練習を積み重ねるうち、どこまで行っても、自分らしさしか出せないという悩みにブチ当たる。強くて華のあるキャラを演じることはできるが、弱さのあるキャラや、凡庸なキャラ、卑屈なキャラを上手く演じることが出来ないのだ。言うなればキムタクである。キムタクには存在感はあるが、どの作品でもキムタクになってしまう。舌で頬をつついて「ちょ、待てよ」とやる、あの演技ばかりを見せられることになる。この友人は、自分の強みと弱みの双方と向き合って、今後どのような演者になるかを選ばなければならなくなる。

校長以外で唯一、自分が女性であることを知っている幼馴染の男性の級友。彼はジャックエース(男性役の主役)に憧れてユニヴェールに入学するのだが、どことなくひ弱さがあり、顔立ちも中性的なので、望まない女性役(ジャンヌ)の配役ばかりだ。しかも彼なりに課題や葛藤を乗り越えてはいるものの、公演後に表彰されるほどの評価を得ているわけではない。言葉を選ばず書くと凡庸ということである。男性役でも女性役でも高い評価を受ける主人公、男性役としての華々しさを見せる上記の級友とは対照的である。次第に彼は鬱屈を抱え、主人公や上記の級友に対して嫉妬や劣等感を抱くようになる。そして主人公たちと一緒に自主練習をすることを拒否するようになる。独りで練習したからといって別に演技が上手くなるわけでも、公演で評価されるようになるわけでもないのだが……。

もう少し書くと、3年生でジャックエース(男性役の主役)をよく務める先輩・睦実介。本作では、男性なのに敢えて女性役の主役(アルジャンヌ)を演じる演者の何とも言えない華やかさや艶やかさが男性歌劇の魅力だとよく言われている。つまりアルジャンヌ(女性役の主役)が華で、ジャックエース(男性役の主役)は器だという形容がよくなされている。この3年生の先輩・睦実介は、ジャックエースすなわち器として、アルジャンヌとしての才能を持った別の3年生・高科更文が華として輝くよう、ずっと支えてきて、それが評価されてきたのである。しかし主人公の才能が1年生ながら非凡すぎて、主人公と高科更文のセットが新たな地平の可能性を見出してしまう。その結果、睦実介と高科更文の関係性は終わりを迎えるのである。睦実介は、高科更文を支える器としてだけではない、演者としての自分の新たな価値を探す必要に迫られるのである。

……と、こんな感じで、他にも、先輩たちや他の学級の生徒など、程度の差はあれど10名以上がこうした課題や葛藤を抱えている。歌や演劇だけでなく脚本を自分で書く先輩、歌に非凡な才能を持つけれど演技やダンスは得意ではない先輩、自分は優秀だというプライドを持って実際優秀なのだがチョイ役や顔の出ない配役ばかりの同級生などなど、ほんっっっっっと色んな課題や葛藤があって、めちゃくちゃ勉強になるし面白い。

リズムゲーム自体も、アドベンチャーゲームとしての到達度までは行かないまでも、まあ悪くはないかな。

あまり売れてないのかなーと思うが、この作品はめっちゃくちゃ面白いから、男女問わず是非プレイすべきだと思う。