森時彦『ザ・ファシリテーター2 理屈じゃ、誰も動かない!』

ザ・ファシリテーター2―理屈じゃ、誰も動かない!

ザ・ファシリテーター2―理屈じゃ、誰も動かない!

『ザ・ファシリテーター』の続編。
前作は、小説としてもファシリテーションの教科書としても面白かった。しかし正直、主人公には感情移入できなかった。触媒だの促進だのと言っても、それは結局「メンタルブロックにとらわれている人々を上からコントロールしている」という図式なのである。上手く部下を導けずにやり方を変えることはあっても、考え方を変えた場面はなかったように思う。まあ前作を読んでいるうちは「もやもやするな……」という程度だったが、本書を読んでいるうちに自分の気持ちがクリアになってきた。要は「ファシリタティブ・リーダー」という像が欺瞞的に思えたのである。
適切でない行動や思考にも、その本人にしてみれば、それなりの言い分がある。それは会社やチームとして妥当な言い分とは思えない場合も多いが、それはやはり「言い分」なのである。相手の言い分を聞き入れることなしに触発や促進は起こらないと思う。もちろん主人公はそんなこと百も承知だし、メンバーに納得させて実行させたいなどと言っているのだが、どうも俺には、前作でやったことは「主人公が考えたフレーム」にメンバーが追いついていただけという面が強かったように思う。
しかし本作では、この構図が後半から変化する。主人公がよりファシリタティブになったわけではない。リーダーとしての厳しさを身につけたのだ。あくまでも道具としてファシリテーションのスキルやファシリテーターを活用する。それが徹底されたように思う。役に立てば、それがファシリテーションかどうかはどうでも良いではないですかと主人公が笑うシーンがあるのだが、確かにその通りなのだと俺も思った。
ところで本書では「フレームワーク」が積極的に活用される。以前、勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術 自分をグーグル化する方法』のエントリーで、フレームワークについて

フレームワーク思考のメリットは大きく「思考の抜け漏れをなくす/思考の抜け漏れがないか点検できる」ことと「情報の整理・分析の効率を上げる」ことではないか

と書いたが、本書で3つ目のメリットを明確に意識できた。それは「議論を進める際の拠り所となる」ことである。
ディスカッションやディベートやアクションラーニングの場合は、一人でじっくりと考える場合に比べ、参加者の土台となる共通認識や前提がより重要となる。もちろん「じゃあ、まずマインドマップで発散してKJ法で整理してマンダラートでも使ってまとめてみようか!」といったわざとらしいフレームの乱発は論外だが、フレームワークは相当な効果を発揮すると本書を読んで強く感じた。