日経連出版部編『新型賃金制度事例集』

新型賃金制度事例集 (ニュー人事シリーズ)

新型賃金制度事例集 (ニュー人事シリーズ)

本書は三洋電機デンソーJTBベネッセコーポレーション日本アイ・ビー・エム資生堂、日本ヒューレットパッカード、インテリジェンス、オリンパス光学工業(現オリンパス)、松下電器産業三井金属(正式名:三井金属鉱業)の11社の人事制度の事例が載っている。れぞれの制度は「なるほど」と思うし、俺個人のリファレンスとしては役に立つ。ただ猛スピードで移り行くビジネスの世界においては、10年間というのは実に長い。
三洋電機は経営不振による規模縮小、JTB持株会社制(ホールディングス)への移行、ベネッセは教育事業への選択と集中IBMthinkpadの売却に代表されるビジネスドメインの大幅な見直し、松下電器産業事業部制の撤廃とパナソニックへの社名変更――とまあ、俺がすぐわかる事実だけでも、2008年現在と本書の出版された1998年とでは会社の状況は大きく異なっている。隔世の感である。他に調べてみたところ、インテリジェンスは……言うまでもなく分社化やら買収やら、この10年間で色々やっているようだ。HPは横河電機との合弁解消&米HP100%子会社化&アジレント・テクノロジーの分社化&コンパックコンピュータの合併。デンソー資生堂も、俺が知らないだけで大きな構造変化や環境変化・構造変化を経ているだろう。
それにマクロ情勢も本書の発売された1998年と2008年現在では全く異なる。1998年と言えば、陳腐で申し訳ないが「失われた10年」の真っ只中である。その後、ネットバブルだの日本の株価回復だの構造改革だのアメリカの住宅バブル(とその崩壊あるいは歪みとしてのサブプライム問題)だのライブドア問題だの村上ファンド問題だの中国バブルだのインドITバブルだのWeb2.0だのフリーターニートといった現象を経て、やはり日本経済は(連続性はあるのかもしれないが)この10年〜15年で厳密には変質しているというのが俺個人の感覚だ。
「完璧な人事制度など存在しない。完璧な卵焼きというものが存在しないようにね」
村上春樹風に本書の感想を書くならば、こんな感じかな!(台無し)
ちなみに俺が最も時の流れを感じたのは、職業柄だろうか、「コンピテンシー」という言葉が(急いで読んだので、見逃していない限り)1回も出てこなかったことである。わかる人にはわかる。