- 作者: 金井壽宏
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 1999/01
- メディア: 文庫
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今、組織論や経営管理論を入門書から専門書まで徹底的に読み込んでいるが、この本はかなり良い入門書である。いくつもの特長があるのだが、俺にとっての最大の長所は、本書が「組織には多様な見方(組織観)が存在するということを認め、その違いを丁寧に押さえながら組織のメカニズムを解説している」という点である。
例えば、本書の冒頭では組織の捉え方(組織観)と人間観をセットで10個ほど紹介しているのだが、ただ教科書的に羅列しているわけでも、自分の立場に近いものをゴリ押ししているわけでもなく、歴史的経緯も踏まえながら10の立場の違いがわかるように平易な言葉で説明してくれている。
そのことで、知識経営論の生みの親として知られる野中郁次郎がその登場時からセンセーショナルに知識創造を前面に出したのではなく、当初は(サイモンやガルブレイスや加護野忠男などと近いスタンスで)組織を「情報処理システム」の側面から捉えることを提唱してきたが、コンピュータのような情報処理だけでは捉え切れない暗黙知と形式知の深い営みを組織観に反映しようとする中で、組織を「知識創造の母体」として捉え直すようになった――といったことまで簡単に学べてしまう。野中郁次郎の本はいきなりヘーゲル哲学から始まったりするので、俺も探索的な読み方しかしていないが、知識創造という考え方は日本が誇るべき理論であり、そのエッセンスがここまでシンプルかつパワフルに学べるというのは、本当に凄いことだと思う。
また、巻末にまとめて参考文献やブックガイドを載せるのではなく、「この人の考え方をもっと知りたければ、この本が良い」「この理論に対する反論はこういったものがあるが、それはこの本に詳しい」といった形で文中に参考文献を挟み込んでくれるため、自分が興味を持った考え方を詳しく勉強するために一体どれを読んだら良いのか、実にわかりやすい。しかも本書で十分に論じ切れなかった理論を勉強するためのガイドブックも巻末に付けている。文体も読みやすく、また誠実な文章である。ここまで至れり尽くせりで1,000円もしないなんて、どうかしてるよマジで。昨日の沼上幹『組織デザイン』と併せ、組織論や経営管理論を学びたい方は必読である。
というか昨日のエントリーで取り上げた沼上幹『組織デザイン』といい本書といい、日経文庫は相当クオリティが高い。今まで知らなかったな。他の日経文庫の本もチェックしてみよう。