- 作者: トルーマン・カポーティ,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/02/29
- メディア: 単行本
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俺は『ティファニーで朝食を』というタイトルから、セレブな男女カップルがセレブなデートを楽しむだけの腐れ落ちた小説を勝手にイメージしていたのだが、当然そのような小説ではない。誰もが一読して思うだろうが、ホリー・ゴライトリーという主人公の女性がとても魅力的だ。こういう奔放さがチャーミングさに上手く結びついた女性というのは、現実世界でも物語世界でも本当に少ない(もちろん男性も)。奔放な人間の多くは空気が読めないから、得てしてウザ……いや、これ以上は言うまい。
しかしアレだ、俺は基本的に小説の感想というものが苦手で、本書についても、なかなかこの魅力を伝える言葉というものを持たないのだが、やはり良いものは良い。俺はひねくれ者なので、いわゆる「名作」や「ヒットチャート」の類を避ける傾向にあるけれど、時代や洋の東西を超えて親しまれる作品の持つ力は凄いなと再認識させられた。
ところで『ティファニーで朝食を』と言えば、オードリー・ヘップバーン(オードリー・ヘプバーン)主演による映画版が有名だが、トルーマン・カポーティも村上春樹も、ヘップバーンとホリー・ゴライトリーのイメージはいささかそぐわないと考えているようで、本書も文庫版も、ヘップバーンの写真は一切載っていない。まあ俺は映画版も観ていないから何とも言えないけれど。
余談
村上春樹は先日イスラエル最高の文学賞である「エルサレム賞」を受賞したのだが、受賞辞退を求める声もある中、あえてイスラエルまで行き、受賞スピーチでガザ侵攻を批判したそうだ。イスラエルとパレスチナの問題については、いつどこで誰が何をどう言っても必ず賛否両論が出てくるような、もうどうしようもないほど絡み合った問題である。俺もここで軽々しく書くのは控えたいと思う。しかし村上春樹はあえて語った。経済学者の池田信夫が言うように「イスラエル人の前でこのようなスピーチを行うことは、受賞を拒否するよりはるかに困難な決断だ」ったであろう。そして当然ながら、このことについて賛否両論が数多く沸き起こっている――のだが、この点に関して俺は村上春樹の発言を一文だけ引用したい。
作家は自分の目で見たことしか信じない。私は非関与やだんまりを決め込むより、ここに来て、見て、語ることを選んだ。
俺にとって村上春樹は特別な作家であり続けている。しかしそうした「ひいき目」とは全く無縁なところで、俺はこの言葉に、村上春樹が長い作家人生を通じて培った「コミットメント」の深みを感じたのである。俺は村上春樹の発言内容ではなく、その決断と彼の魂を断固支持する。