閉塞感に苛まれ、日々、自分の投げたペンが銃弾になって学校の先生を打ち抜くとか、自分の背後の靴箱がドミノ倒しになって大惨事とか、そういうカタストロフな妄想にいそしむことで心のバランスを取っている主人公の女子高生。しかし受験にはしっかり取り組む訳で、その日もきちんと予備校に行って勉強するわけです。で、その女子高生が、予備校講師の携帯電話(落とし物)を拾って出来心で(というか落とし主を知るためと自分を納得させて)携帯の中身を確認したところ、予備校講師がドMだった……という、なさそうでありそうなプロローグ。
「MUD」で面白いと思ったのは、心理描写と現実描写の枠を上手く取っ払った虚実が入り混じった描写スタイルである。
でも冷静に考えると、そもそも漫画というのはこういう……つまり現実の層と虚構や意識下の層を同一レベルで描写するアプローチは得意なはずである(例えば映画だとCGが入りまくって嘘くさかったり金がかかったりするし、活字だと読者がイメージすること自体が難しかったりする)。この人は漫画という表現形式に自覚的な漫画家なのかもしれない。他の収録作は初期作品が多く、個人的には「まあまあ」程度だったが、この「MUD」という作品は面白いと思った。