- 作者: 森崎修司,日経SYSTEMS
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2013/09/19
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る
また個人的に「なるほど」と思ったのが、あえて誤字脱字の指摘を無視せよという主張。そういう些細な指摘を無視すれば、レビュー工数や修正工数が半分になるかもしれないとまで著者は述べている。
やや脱線するが、コンサルティングプロジェクトでは、パワーポイントやエクセルを用いて作成した報告書や検討資料をクライアントに提出することが多い。その際に誤字脱字やレイアウトのズレをきちんと確認して潰し込む人もいれば、大事なのは内容だと言ってそれほどこだわらない人もいるが、私は前者である。大事なのは内容だと言う点に私は賛成なのだが、誤字脱字だらけの報告書・検討資料を渡されて重要な意思決定をせよと言われても、私がクライアントなら「誤字脱字程度もチェックできない人間が分析したデータや結論って本当に正しいのかね? エクセルの計算式は本当に問題ないの? このロジックは本当に精査した実効性のあるものか?」と思えて、肝心な内容に目が行かないように思うからである。また成果物がドキュメントである以上、クライアントがお金を払った対価は一義的には報告書や検討資料であるが、その関係を個人レベルで喩えると、本屋で書籍を購入したようなものだと言えるだろう。金額の大きさを勘案すると、ディーラーで車を購入したようなものかもしれない。そんなときに私なら、誤字脱字だらけでレイアウトがズレまくった本を買ったとき、単純に良い気持ちがしない。あるいはドアが何かにぶつけられてぼこぼこで足跡がつき、内装も糞チープでガタガタの新車を納車されて「大事なのはきちんと安全に走れることですよね? そこは問題ないです」と言われても、私なら納得はしない。
……という思いが私にはあるのだが、では設計書とは何だろうと考えたとき、設計書とはあくまでも「中間」の成果物である。コンサルティングプロジェクトにおける報告書・検討資料は「最終」成果物なのだが、システム構築プロジェクトにおいてはシステムが作れて動くことが目的であり、重要なのはシステムそのもの、あるいはソースコードである。ソースコードに誤字脱字や文法間違いがあれば、システムは動かない。しかし設計書に幾つか誤字脱字があったところで、全ての要件が漏れなく反映された適切なシステムが作れ、かつメンテできるなら、設計書の誤字脱字を放置したところで大した影響はない。もっと言うと、吉原庄三郎『はじめての設計をやり抜くための本』の感想で余談的に書いたように、アジャイル開発では設計書自体を作らない。中間成果物だから、なくしても上手く行くのであれば、なくしてしまおうという発想だ。ソニックガーデンの社長は「ソースコードこそがもっとも貴重な資源であり、仕様を現した事実です」と言っている。これらを踏まえると、著者が言うように、設計書の誤字脱字なんて無視しても良いという意見には一定の説得力がある。
全体を通して非常に役に立つ、良い本だと思う。おすすめ。
ただし一点だけ気に入らない点があり、それは内容ではなく、本の大きさである。私がビジネス書を格納する本棚は、一般的なビジネス書の大きさに合わせて作っているので、本書のような大判の本だとギリギリ入らない。大きくする必要があるのならば仕方ないが、本書は読み物であり、特に大きくする必要も感じなかった。こういう意味のない大型化はやめてほしい。私が購入した時点ではKindle版はなかったように思うのだが、今はKindle版も出ているようなので、そちらにすれば良かったな。