星健一『amazonの絶対思考』

アマゾン・ジャパンの事業統括や社長を10年間担ってきた方がAmazonについて語り尽くした本。

事業ドメインや意思決定文化など非常に詳しく説明されている。

個人的に最も気に入ったのは、時折聞く「パワポ禁止」について詳しく書かれていることだ。パワポは要点だけを箇条書きにして重要であるが細かいことを口頭説明にしたり、グラフやアニメーションでプレゼン上の工夫(という名の印象操作)をすることで逆に作成者の主観を過剰に押し付けることになっている、という指摘には同意する。またわたし自身、パワポは見てくれの綺麗化にかなりの時間をかけているのと、パッと見で理解してもらうために情報を削ぎ落としていることから、結局は文章で数ページ書いた方が実は生産的なんじゃないかと考えるようになっている。

 アマゾン社内のビジネスドキュメントは、「Narrative」(ナラティブ=物語)と呼ばれるA4で1ページの「1ページャー」、もしくは6ページの「6ページャー」のメモのどちらかにまとめることになっている。
 報告書など社内で提出するほとんどのドキュメントは1ページで簡潔にまとめる。年度ごとの予算であったり、大きなプロジェクト提案などは6ページにまとめるのが基本的なルールだ。ドキュメントの内容はどんなトピック(論ずるテーマ)かを示す見出しと、トピックを説明する文章のみ。詳細な数字や、補足情報が必要な場合は別途「Appendix」(添付資料)として、枚数にはカウントしない。
 6ページャーが提案される会議では、冒頭のおよそ15〜20分間、まずは全員がドキュメントを読むための時間にあてられる。静まったミーティングルームで参加者が黙々とドキュメントを読む雰囲気はかなり緊張感が漂っている。
 その後、基本的にはページごとにドキュメントの提案者であるオーナーが出席者からの質問に答えながら、さまざまなフィードバック、アドバイスを通して議論を重ねていく。当然「Dive deep」(深堀り)の質問が相次ぐことがほとんどなので、提案者にはどんな質問にも理論的な回答ができるようにプロジェクトの細部まで把握、理解をするのと同時に、提案内容に共感を得るための説明能力や説得力が求められることになる。

アマゾンが上記のように、このようなメモを作成して議論するプロセスを取り入れているのには、大きく5つの目的があるそうだ。

  1. 効率化
  2. 質の高い質問とディスカッション
  3. 場の公平性
  4. 戦略的な思考
  5. 過去のアイデアや決定事項の記録

さもありなんという感じだが、特に2点目の「質の高い質問とディスカッション」は効果的だと思う。これはクライアントと言うよりも社内の上司の方が当てはまるが、プレゼンを最後まで聞かず、表層的な疑問に表層的に質問してくる人が本当に多い。まずじっくり最後まで読むか聞くかして、その上で質問する方がよほど生産的である。本気で「冒頭のおよそ15〜20分間、まずは全員がドキュメントを読むための時間」を取り入れようかと考えながら読んだ。

なお、1ページャーと6ページャーは内容ごとに構成がテンプレート化されており、代表的なものが紹介されている。

1ページャー [Progress report](経過報告)の場合

  • Introduction(序論、まとめ、結論)
  • Overview of Plan(プランの概要)
  • Review of Progress(進捗状況)
  • Changes in Plan Since Last Update(前回の報告からの変更、変化)
  • Overview of Risks(リスクの概要)
  • Next Steps(次のステップ)

6ページャー [Project proposal](プロジェクト提案)の場合

  • Part1 : Press Release1 pager(プレスリリース1ページャー)
  • Part2 : Main Document6 pager(メインドキュメント6ページャー)
    • Introduction(序論、まとめ、結論)
    • Customer Need(顧客のニーズ)
    • Market Opportunity(マーケットのオポチュニティー)
    • Business Case(ビジネスケース)
    • Risks(リスク)
    • Estimate of Effort(概算の開発期間)
    • Timeline(ローンチスケジュール)
    • Resources Required(必要なリソース)
  • Part3 : Q&A(想定問答集)
  • Part4 : Appendices(添付資料)
  • Part5 : Financial Model(財務モデル、PL損益計算表の試算)

構成やコンテンツを社員に考えさせるのではなく、様式に沿って説明させる方が、判断する側も楽ということなのかもしれない。

Amazonのやり方は、色々と示唆があるなあ。