NHKスペシャル取材班『やせる!若返る!病気を防ぐ!腸内フローラ10の真実』

6.2

本書は腸内フローラを世に広めた2015年の番組『腸内フローラ 解明! 脅威の細菌パワー』の取材班が、最新の研究成果をわかりやすく整理したもの、という位置づけである。まあ2015年時点での最新なので、今からすると少し違う点もあるのかもしれないが、そこまで大きくは変わっていないだろう。

まず、腸内フローラの正式名称は腸内細菌叢ちょうないさいきんそうである。腸内細菌は、菌種ごとの塊となって腸壁に隙間なくびっしりと張り付いており、この状態がお花畑(flora)に見えることから腸内フローラと呼ばれるようになったそうだ。すごーくざっくり書くと、「腸内環境」と「腸内細菌」の合わさったような意味なのかなと思っている。

次に、本書の構成だが、前編は「腸内フローラ 10の真実」で後編が「腸内フローラ『超』深い話」である。要するに、前半は入門編、後半は応用編だと理解した。

まず前編のポイント。

  • 腸内フローラの真実1
    • 痩せている人と肥満の人で腸内フローラに違いがあるが、単に肥満の結果の結果ではなく、腸内フローラの違いが原因となって肥満を引き起こしてることが判明している。
    • 腸内フローラを肥満フローラとやせフローラに便宜的に区分した場合、その顕著な違いはバクテロイデス等の数種類の腸内細菌である。これらの腸内細菌は食物繊維を分解して短鎖脂肪酸を作るが、脂肪細胞には短鎖脂肪酸に反応するセンサー(受容体)があり、短鎖脂肪酸を感知すると栄養分の取り込みをやめ、脂肪が過剰に溜まるのを防いでいる。また交感神経にも短鎖脂肪酸に反応するセンサーがあり、短鎖脂肪酸を感知すると代謝が活性化する。
    • 短鎖脂肪酸は酢酸・酪酸・プロピオン酸の総称であるが、酢を飲めば同様の効果が認められることがわかった。しかし酢の効果は一時的だし、採り過ぎは歯にも悪い。結局、食物繊維をしっかり採って腸内をやせフローラにする方が良い。
    • 腸内細菌は、単純に善玉菌と悪玉菌に分けられるわけではない。
  • 腸内フローラの真実2
    • 糖尿病は、肥満を防ぐ短鎖脂肪酸で改善できる。また短鎖脂肪酸は腸内環境を整えてインスリンの分泌を促す
  • 腸内フローラの真実3〜4
    • 肌のシワを改善するエクオールを作り出す腸内細菌を、日本人の2人に1人が持っている。大豆を摂ることでエクオールを作り出す腸内細菌も増えると考えられる。またエクオールにはがん予防効果も期待されている。一方、肥満になると増える腸内フローラ最近はがんを引き起こす。
  • 腸内フローラの真実5
    • 腸内細菌は動脈硬化も引き起こす。ただし将来的には乳酸菌のプロバイオティクスで防げる可能性もある。
  • 腸内フローラの真実6
    • 腸内環境とアレルギーの関係性も指摘されており、腸内環境の改善はアレルギー予防や改善に繋がる。
  • 腸内フローラの真実7
    • 腸のバリア機能が弱まると糖尿病やがんになりやすくなる。そしてバリアを守るのは短鎖脂肪酸(また出てきた)。
  • 腸内フローラの真実8
    • 腸内細菌がいないと、脳が正常に発達できない上、腸内フローラ次第で性格まで変わることが指摘されている。
  • 腸内フローラの真実9〜10
    • 腸内最近でうつ病や自閉症を治療しようという研究が進んでいる。

次に後半はちょっと抽象度が上がったかな。

重要な指摘としては、人類と腸内細菌は長い時間をかけて「共進化」とも言うべき仕組みを作っているということだ。例えば赤ん坊がものをベタベタ触って指しゃぶりをしたり、近くにあるものを口に入れたりというのは、腸内細菌を取り入れるための本能だという説もあるらしい。でも事実として、腸内細菌は多様性が非常に重要で、病気の人や老人の腸内細菌は多様性が失われていくそうだから、腸内細菌を獲得しようとする子供の本能は正しいのである。