- 作者:堀江貴文
- 発売日: 2020/05/29
- メディア: Kindle版
はじめに
ホリエモンは(まだ宣言したわけではないが)都知事選に出ると言われており、その彼が出した東京都をより良くするための提言が本書である。
彼が選挙に出るなら、本書の内容が実質的な選挙公約・マニフェストのようなものと考えて良いだろう。
わたしは今の政治に対して大きな不満を持つ人間だが、その最大の理由が、選挙公約やマニフェストと呼ばれるものに起因する。どの政治家もテキトーなことを選挙公約・マニフェストとしてブチ上げるが、いざ当選したら誰もそんなことをやろうとはしない。当選早々に「あれは単なる心意気のようなものだ」という類の発言をした政治家もいたな。これについては村上龍の書籍を引用しておきたい。
ゆっくりとした変化なので、気づいている人が少ないのかもしれないが、日本の政治は完全に末期的な症状を示している。わたしが主催する「JMM」というメールマガジンを通じて、山崎元という金融のプロから、重要なことを学んだ。政府の予算案をどう思うかという質問への回答の最後に、山崎さんは「政治は監視の対象ではありますが、期待を持ち込む場所ではありません」と書いた。以前から思っていたことが、はっきりと言葉になったような爽快な表現だった。大手既成メディアが、何を勘違いしているかはっきりとわかった。
たとえば「菅内閣に何を期待しますか」という質問だ。新政権が発足するとき、メディアは「街の声」を求めて、人々にそう聞く。そんな質問は、意味がないというだけではなく、絶対に聞いてはいけないのだ。日本の政治システムでは、政権は総選挙で勝った与党が担当し、党首が首相となる。だから、選挙の際のマニフェストを実行するかどうか、国民もメディアも、単に「監視」するだけでいい。そして、マニフェストが実行できないときは、その理由を明らかにして、理由に納得できない場合は世論で政府を倒す。
(略)
大多数の日本の政治家は、自分が監視されているのではなく、期待されているのだと勘違いしている。大手既成メディアが、何を期待しますかと街の人々に聞くのだから、そう勘違いするのも無理はない。「新政権のどんな政策について監視しますか」と聞けば、政治に良い意味での緊張が生まれるかも知れない。だがそんな質問が発せられることなく、日本は衰退の一途をたどるのだろう。
期待、奇妙な言葉だ。期待するというのは、相手に何かを望むという意味だが、経済や政治は本来は「契約」で成立していて、そういった概念からは無縁のはずだ。男が女に対して「甘い期待」を抱く、というのはごく自然なことだが、たとえば、営業が取引先に期待するのも、上司が部下に期待するのも、考えてみればおかしい。契約している場合を考えると理解しやすいが、契約を交わす双方には、契約の履行があるだけで期待はない。
incubator.hatenablog.com
わたしは選挙公約・マニフェストについては、それができたのか/できていないが明確な進捗があったのか/できていないのかを、厳正に評価すべきだと思う。極論すれば、政治家を選ぶ基準など選挙公約・マニフェストしかないはずなのだ。やれもしない、それどころかやる気もないようなことで政治のリーダーが決まるのにはうんざりだ。それは控えめに言ってリーダーなどではなく夢想家、遠慮なく言わせてもらえば詐欺師を選んでいるに過ぎない。
その観点でいうと、現職の都知事・小池百合子が掲げた7つの
ホリエモンについては、政治家を本気でやる気などなく、ただ本書を売るためのプロモーションのために都知事選に立候補すると言われているが、もし本書で書かれた37の公約を本当に実現させる気があるなら、わたしは迷いなくホリエモンに投票するだろう。
さて、以降はホリエモンの掲げる東京改造計画を実際に見てみたい。
東京改造計画 - 経済
1. 本当の渋滞ゼロ(賛成)
ダイナミック・プライシング(価格変動設定)を導入し、混雑時は料金が自動的に高くなるような料金設定と料金徴収のシステムを構築するというもの。
2. ETCゲートをなくす(賛成)
ゲートなしのETCは実用化され、東京都心の一部では既に設置されているそうだ。技術的に可能であるなら、そうすれば良い。1との連動も容易いだろう。
3. パーソナル・モビリティ推進都市に(賛成)
近い未来に、セグウェイなどのパーソナル・モビリティ(1人乗りの移動手段)の推進都市にしたいと書かれているが、賛成。ホリエモンが構想する理想のパーソナル・モビリティは「イスの進化系」「カッコいい一人車椅子」とのことだが、セグウェイよりも安全だし、バスや電車やタクシーをその規格に合わせると、凄く魅力的な都市になる気がする。近い将来、車の自動運転技術が確立するわけだから、当然パーソナル・モビリティも自動運転が可能になるだろう。
4. 満員電車は高くする(賛成)
1で掲げたダイナミック・プライシングを電車にも導入せよというもの。満員電車の乗車運賃を高くすることで、企業も時差通勤やリモートワークに踏み切りやすくなるので賛成。
5. 切符も改札機もなくす(賛成)
技術的に可能なら大賛成。
6. 現金使用禁止例(賛成)
大賛成。お金を電子化してマイナンバーと紐づければ、自営業者の節税という名の脱税もなくなるし、お金の流れを補足できるから反社行為も相当な打撃を受ける。いわゆる闇金みたいなものもなくなるし、タンス預金も減らせて死蔵したお金が減る。ずっと前からわたしはこれをしてほしいと思っていた。
7. 東京メトロと都営地下鉄を合併・民営化する(賛成)
メトロと東京地下鉄は、利用者側としてはSUICAやPASMOさえあればほとんど一体化されているし、相互乗り入れもしまくっており、別会社にしておく必要性を素人的にはほとんど感じない。合併して効率化すれば良いと思う。なお、はっきり言うと民営化しなくても経営が効率化されれば良いわけで、わたしは何でもかんでも民営化すれば良いという話に必ずしも賛成するわけでもない。ただ、非効率な運営が多いという前提に立つならば、民営化にも賛成する。
8. Uber解禁(賛成)
3で既に、白タクを解禁してライドシェアによって移動を効率化すると書いており、何か記載が被っているなあ。けどライドシェア自体は原則賛成。
9. 東京の空が空いている(賛成)
建物の容積率緩和と空中権取引によって、東京都が持っている不動産は今後大きなキャッシュを生み出せる余地があるという。例えば、2012年10月に東京駅の丸の内口がリニューアルされたが、総額500億円のリニューアル費用を「空中権」によってJRは全て賄ったそうだ。これは初耳だったが、面白いな。
10. 江戸城再建(保留)
東京都を面白い都市、魅力ある都市にするというアイデア自体には賛成。ただ江戸城というアイデアは正直あまりピンと来なかった。
11. VRのインフラを整える(賛成)
VRを活用してスポーツの試合やテーマパークを配信するというもの。最近VRは凄く着目されているが、活用方法が正直見えないんだよね。せいぜいアダルトビデオぐらいか。その意味では、都を挙げてVRを推進するのは賛成。感度の高い人々が世界中から集ってきて、東京という街がもっと面白い街になる可能性もある。
12. 足立区は「日本のブルックリン」に生まれ変わる(賛成)
足立区は23区の中でも貧困層が多く、治安も良くないと言われる。ホリエモン的には、足立区で無駄に余っている公営施設を解放したり家賃の安さを活かしたりして、アーティストやデザイナー・クリエイターを日本中・世界中から集めることで、足立区をブルックリンのようにカッコ良くてイケてる街にするというものだ。賛成。
13. 築地・豊洲市場改革案(保留)
魚も肉も内蔵を除けば多少寝かせた方がおいしいのだから、別に毎日早朝から市場に足を運んでセリをする必要などないだろうという話。それは良いとして、築地・豊洲の市場がどう変わっていくのかがよく見えず、寝かせた方が旨いよねというウンチクありきの話に思える。保留。
14. 築地市場跡地のブランド化(保留)
「日本中のおいしい食を楽しめる象徴的な場所として、旧・築地市場をブランド化する」という案。演出を加えた「ショー」としてのセリを見せれば良いとあるが、正直それぐらいしかアイデアがないように見える。築地市場という名前自体は確かに世界的にも少しは知られているが、あまり大したアイデアに思えない。反対するほどの理由はないので保留。
15. オリンピックはリモート競技に(賛成)
世間では、2021年にオリンピックを開催するか or しないかでワーワー言っているが、わたしはその二択ではないと思う。どうやって開催するかというものだ。その意味で、リモート競技にするという案には酸性である。VRやドローンといった技術を使ってこれまでにない価値を提供できれば、アフターコロナにおけるイベント運営のプロトタイプとして長く記憶される大会になるだろう。
東京改造計画 - 教育・社会保障
16. オンライン授業推進(賛成)
授業は、例えば「今でしょ!」の林先生のような超一流の教えるプロの動画を撮って、全員が最高にわかりやすい授業に触れられるようにする。一方、学校の先生はチューター役となり、授業についていけない生徒の個別指導や、生徒のモチベーション対応に従事すれば良いという案。大賛成。というかわたしも20年前から、ずーっと同じことを思っているし、喋ってきた。
17. 紙の教科書廃止(賛成)
これも大賛成。ランドセルも紙の教科書も重すぎる。
18. 学校解体で子どもの才能を解放する(賛成)
16と重複感のある提言だが、こちらは授業のオンライン化によって学校自体を地域の児童館レベルの大きさに縮小できるから、余った学校の土地・建物の売却や貸出で大きなキャッシュを生み出すというもの。とりあえず全員を集めて云々という考え方自体がアフターコロナにおいてはセンスのない対応になるのも同感。共働き夫婦が云々という反対意見に対しては、生み出したキャッシュを素にベビーシッターサービスを使える補助金やクーポンを出せば良いだろうというもの。わたしは賛成。これにより雇用も創出できる。
19. 「正解」を教えない教育(賛成)
暗記主体の知識詰め込み型教育には意味がないから、教育カリキュラム自体を大きく見直していくというもの。本書は「水兵リーベ僕の船」を例に挙げているが、極論すれば九九だって検索すれば出てくるわけだが、九九なんて検索するより覚えた方が百倍スピーディーだし、用語や概念を覚えておかねば検索だってできないとか、細かい点では色々と皆の認識合わせが必要だが、大枠ではホリエモンに賛成。例えば歴史の年号などはほとんど意味がないと思う。そもそも今は「いい国(1192)作ろう鎌倉幕府」もなくなって、「いい箱(1185)作ろう鎌倉幕府」だって言うしね。
20. 大麻解禁(保留)
大麻を吸ってセックスするとめちゃくちゃ気持ち良いらしいから、大麻を解禁したら皆セックスしまくって出生率も上がるだろうという、ほとんど痴呆めいた提言。本書の中ではこれが一番アホちゃうかと思った。これが理由なら別に大麻じゃなくても構わないはずだし、仮にヘロイン・コカインといった大麻よりもはるかに依存性・毒性の強い麻薬を摂取したらもっとセックスが気持ち良くなるとしたら、ヘロインやコカインも解禁するのだろうか。覚醒剤だって同じだ。出生率の観点なら反対。
ただ、ホリエモンが書いている「悪いものは悪い」で思考停止するのは良くないという意見には賛成だし、大麻が人体にどれぐらい有害で、犯罪率の上昇がどれだけなのかをきちんと検証することが重要という意見にも賛成。わたしは個人的に、日本は酒や煙草に対して甘すぎるという気もしている。世の中には酒で大迷惑をかけている人間が山ほどいるし、酒や煙草に比べると大麻のほうが毒性・依存性ともに低いのではないかという意見すらある。この辺はちゃんと検証すべきだと思う。
21. 低用量ピルで女性の働き方改革(賛成)
一応賛成。一応つけたのは、低用量ピルの安全性や有効性はよく知らないから。けど原則的には、安全で誰かの体調が楽になるものであれば、反対する理由もないだろう。
22. 健康寿命世界一(賛成)
急にスローガンめいた話になったが、正直、60歳で定年とか65歳で定年というのは、定年後の人生の長さを考えたら、ちょっと違うと思う。年金支給開始年齢とセットで議論されて、しかも損をしたと思うから皆ワーワー言うのだが、人生100年時代を考えたら、少なくとも普通の人間は70歳までは働いてもらわないと困る。それか、みんな必死でAIやロボの性能を爆上げして、人間が働かなくてもAIが働いてくれる社会を作るしかない。
23. 「ジジ活」「ババ活」で出会い応援(賛成)
加藤茶の年の差婚が例示されるなど、何となく下衆な感じがするけれども、60や70で皆がヨボヨボになられても社会としては辛く、アクティブに生きてもらいたいというのは同意。
24. 東京のダイバーシティ(賛成)
賛成。ただ、ダイバーシティとかLGBTとか言った途端、もう異論も何も許されない空気があるのはちょっと何だかなと思う。ホリエモンとか本当にダイバーシティとか興味あるんだろうか。
東京改造計画 - 新型コロナウィルス対策
25. ストップ・インフォデミック(賛成)
インフォデミックとは「information epidemiz」(情報の伝染)の略称とのこと。これは上から正しい情報発信をするだけでなく、Twitterでデマを拡散する奴らの啓蒙が必要で、長い戦いになると思う。
26. 経済活動を再開せよ(賛成)
個人的には、三密よりも唾液が一番の問題なのだと思う。ガイドライン含めて継続的に改善しながら、経済活動を再開させるのは賛成。
東京改造計画 - 都政
27. 今こそネット選挙を導入せよ(賛成)
ネット上での選挙運動が解禁されたが、それに加えて投票も、自宅やスマホから投票できるようにするというもの。原則大賛成。けれど例えば、金を掴まされたり脅されたりしても、既存の選挙方法だと投票用紙に丸をつける瞬間はガードされ、自分が正しいと思った人間に投票することができる。自宅やスマホから投票できるとなると、投票の瞬間を別の人間がチェックできるので、選挙不正が横行しそう。実現までのハードルはけっこう高い気がする。
28. QRコードで投票できる(賛成)
27と被ってるな。ネット選挙の具体策が28であろう。これも原則大賛成だが、乗り越えるべきは技術ではなく、倫理なのだと思う。ホリエモンの言うように、ITのプロが1ヶ月もあればQRコードでの投票システムを作ることは可能かもしれない。しかし不正を防ぐルールやガイドラインを整備するのは1ヶ月では無理だと思う。
29. 記者会見なんてオンラインで開けばいい(賛成)
言葉のまま。
30. 都職員の9割テレワーク化(賛成)
何の問題もない。
31. 都職員の英語公用語化(保留)
何の意味があるかよくわからない。ダイバーシティの関連?
32. 東京都のオール民営化(保留)
#7と同じ。わたしは何でもかんでも民営化すれば良いという話に必ずしも賛成するわけでもない。ただ、非効率な運営が多いという前提に立つならば、民営化にも賛成する。
東京改造計画 - 未来の生き方
33. 「妖精さん」のリストラ計画(賛成)
大賛成。やる気も能力もない人を抱え込むより、別の職場で奮闘してもらったほうが良い。
34. 遊び場を増やす(賛成)
これも賛成。東京を魅力ある都市にする努力はあって良いと思う。
35. 限りなく生活コストを下げる(賛成)
生活コストを下げるために何が必要かと問われると、土地の既得権益に手を付けることかなと思う。都心部に余っている土地・建物めっちゃあるように見える。
36. 人生100年時代のコミュニティ(賛成)
定年退職した途端、友達が一人もいなくなる、というのはちょっとね。賛成。
37. 都民限定の無料オンラインサロン(反対)
都民限定だと広すぎて2ちゃんねる(今は5ちゃんねる)になると思う。
おわりに(まとめ)
自分なりの評価をカウントすると、賛成30、保留6、反対1。
サーッとつけたので、今後この数はちょっと変わるかもしれない。
東京改造計画を読んで一番思ったのが、「残業ゼロ」「待機児童ゼロ」といったスローガン的な選挙公約・マニフェストに比べると、具体的だということ。
次に思ったのが、一部ハードルが高そうなものもあるが、本気でやろうと思ったらやれるものが多いのではということ。
マニフェストだけを見ると、少なくとも小池都知事よりはマシ。