冷泉彰彦『アメリカの警察』

アメリカの警察 (ワニブックスPLUS新書)

アメリカの警察 (ワニブックスPLUS新書)

日本の警察組織は原則ひとつである。警察庁という全国組織があり、その下に県警組織がある。東京都だけ歴史的に警視庁という名称だが、これも実質は大阪府警や神奈川県警と同じく「東京都警」である……と、ここまで書いて心配になったので調べたら、厳密にはWikipediaにはこう書かれていた。

都道府県警察は、各都道府県知事の所轄下にある都道府県公安委員会の管理下にあって警察庁の組織とは異なるが、警察庁側に警察公務上の監察権、指導権など(管区警察局)が有る。

わたしが書きたいのは、日本の警察組織は原則としてひとつの指揮命令系統にある組織だということである。上記のWikipediaを読んでも、この説明は概ね間違っていないだろう。

アメリカは違う。アメリカには何と、18,000もの警察組織が独立して存在している。全国組織、州レベルの組織が独立しているのは当然のこと、州の下の郡レベルや町レベルでも組織が独立して存在しているそうだ。だから警察組織間での転職というのが日常茶飯事、それどころかひとつの大きな転職マーケットであり、警察官向けの転職雑誌みたいなのが普通に売られているそうだ。

なお軍隊も、陸軍・海軍・空軍といったアメリカ全体の組織といわゆる州兵と呼ばれる地方組織は別物らしい(こちらは警察組織とは少し事情が異なるようだが)。また最近のアメリカのドラマ・映画でもたまに登場していたが何気なくスルーしていた「保安官」も、警察官の別名ではなく厳密には別組織・別役職である。保安官の長官などは今でも直接選挙で選ばれるとか。

これが良いことなのか悪いことなのかは、一概には言えないだろう。そもそも日本とアメリカでは警察組織以外にも多くの物事が異なっている。しかし18,000も警察組織があると、組織によって警察官の採用レベルや処遇・育成レベルに大きなバラツキがあるのは紛れもない事実である。それどころか、そもそも警察官に鳴るための警察学校の格差が社会的に問題となっている。州によって、警察学校卒業までの所定の訓練時間が最大で800時間、最低で320時間と幅がある。そもそも800時間でさえ十分でないと言われる中、その州の理髪師免許のための訓練時間よりも短いと批判されている州すらある。

そう考えると、著者も書いているが日本の警察組織は何だかんだと規律正しいと思う。

アメリカみたいに、町の警察官が、町の有名人として信頼され、また認知されていて、ランチを買いに来た警察官と市民が談笑する……みたいなのも、それはそれで羨ましいと思ったりするんだけどね。

各国の良いところと悪いところを、上手くミックスして改善できないかな。大きな組織になると難しいんだろうな。

なお本書では、アメリカの警察を難しくする、司法取引や銃社会などについても詳しく解説されている。特に保守派の心情は興味深い。銃所持賛成派(銃規制反対派)は、銃が好きだからでも、銃をぶっ放したいからでもなく、とにかく銃が怖くてたまらないから自衛のために持っている――という指摘はなるほどと思った。近年はただのピストルではなくアサルトライフルのような貫通力・連射力の高い武器まで数千丁レベルでアメリカの各家庭に出回っているそうで、自業自得・自縄自縛の典型としか言いようもないが、まあそりゃあ怖いだろう。こうした背景もあって、本来自衛のためなら隠し持つだけで良いはずなのだが、銃を見せつけて歩けば相手も反撃を恐れて自衛になるだろうという賛成派以外には理解し難いロジックで、ことさらに銃を見せつけて歩く輩(輩としか言いようもない)が発生して、これまた社会問題になっているとか。やっぱりわたしは、アメリカにだけは住みたくないな。日本ほど銃が規制されている国はないと思うし、アメリカほど銃が野放しになっている国も絶対ない。この二国が軍事同盟を結んでいるというのも興味深い。