柳良平+DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部『ESGの「見えざる価値」を企業価値につなげる方法』

ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)で掲載された論文のKindleでのバラ売り。漫画などでは最近よく単話で100円とかでバラ売り・切り売りがなされているのだけれど、わたしはほとんど全く買わない。それどころか検索の邪魔になるので消え失せてほしい施策だと思っている。しかしHBRだけはたまに買っている。

このレポートは、エーザイの元CFOの柳良平が書いたもので、柳良平は日本のトップクラスのCFOとして毎年のように表彰されていたことで有名だが、もうひとつ、ESGという目に見えない要素がいかに企業価値に連関するかを真剣に考え、また理論化・実証化しようとしたことでも有名である。本書はその成果を端的に書いたものだが、わたしの理解ですごくざっくりとまとめると、ポイントは2点である。

ひとつは、PBR(株価純資産倍率)という経営指標とESGの関係性を仮説的に整理したというものである。通称「柳モデル」と呼ばれている。

PBR(株価純資産倍率)とは、会計上の純資産(自己資本)の何倍の時価総額になっているかを示した指標である。これが1倍を超えて高いほど、会計上の価値を超えた価値が時価総額に織り込まれている、すなわちESG的な要素を含む様々な付加価値が市場に高く評価されているということで、逆にこれが1倍未満だと、会計上の価値を下回る価値しか市場で評価されていないということになる。つまりPBRの1倍までは会計上の価値、1倍を超えるところはESGに代表される経理計上できない見えざる価値であり、このPBR1倍超の部分をいかにして増やせるかが、経営陣の仕事の要諦であるということになる――これがポイントの1つ目である。

もうひとつは、ESG的な取組が本当に財務的な成果に連関するのかを実証的に調査した点である。詳しくは本書に譲るが、人件費を10%増やす、女性管理職比率を10%増やす、時短の社員を10%増やす、研究開発費を10%増やす、CO2排出量を10%減らす、などなどの取組によって、どの程度の財務的インパクトがあるか、かつその効果が何年後に訪れるかを出してくれている。これはあくまでも「エーザイにおいては」ということなのだろうが、個人的には「人件費などはかなり効率の良い投資なんだな」と驚かされる結果になっており、一読の価値がある。