さて本題だが、去年の後半に、スクエニが立て続けに意欲的なゲームを出した。
ひとつが『ダンジョンエンカウンターズ』で、もうひとつが本作である。
ダンジョンエンカウンターズは上の感想を見ていただくとして、『Voice of Cards ドラゴンの島』は何とTRPGをモチーフとしたゲームである。
TRPGとは「テーブルトークRPG」の略で、まだテレビゲームが隆盛を極める前、テーブルを囲んで、皆でワイワイ話をしながらRPGゲームをしていた、まあテレビゲームの源流のようなものである。一般的には、ゲームマスターと呼ばれる役割の人間がルールやストーリーを管理し、その他プレイヤーが数名参加し、カード・サイコロ・マップ・駒(石ころやチェスの駒など)などを使いながら会話をして、ゲームを進める。この「会話」というのが重要で、テレビゲームの場合はプログラムに応じたアクションやストーリーしか基本的には存在しないわけだが、TRPGの場合、ゲームマスターこそがルールでありストーリーなので、プレイヤー間もしくはプレイヤーとゲームマスターで色々と話をしながらストーリーが展開する。
わたしは実際にやったことがないのだが、ネット黎明期に「ホームページ」で載っていた体験談や、実際やっているのを大学時代ちょっと見たことがあるので少し思い出しながら書いてみると、例えば中世の剣と魔法のファンタジー世界を冒険するというゲームがあって、4人パーティーの冒険者御一行がオークと会敵したとする。その場合、テレビゲームだと、「装備武器で攻撃」「魔法攻撃」「アイテム使用」「防御」「逃亡」程度のコマンドから自分の行動を選ぶのが一般的である。シミュレーション要素がある作品だと移動して地形効果を得たり、真・女神転生シリーズやペルソナシリーズだと会話という選択肢もあるが、まあその程度だ。一方、TRPGだと、ゲームの性質やゲームマスターの性格にもよるが、「一旦逃げて罠をはる」「色仕掛けしてみる」「食料を差し出している間に逃げる」といった比較的自由な行動提案が可能である。そうすると、例えば罠の場合、「罠なんて無理だろう」「いや自分(4人パーティーのうちの1人)はハールエルフの盗賊という設定だから罠はお手の物である」「そもそも逃げ切れるのか」「どんな罠にするのか」「その材料はあるのか」みたいなことを議論したりGMが確認したりして、その結果、GMが以下のようなルールというか進め方を決定する。
- 2つのサイコロを振って、その合計値によって以下の分岐が発生することになった。
- 2, 3, 4, 5, 6なら、そもそも逃げられず岩壁に追い詰められたので普通に戦わなくてはならない
- 6, 7, 8, 9, 10なら、一旦身を隠したが気配を隠しきれず、オークは配下のゴブリンを5匹呼び、隊列を組んで警戒しながら周囲を探っている
- 11, 12なら、完全に身を隠したため、オークは諦めて巣穴に戻ってしまった
6〜12の出目だと「罠をはる」という行為は可能だろうが、6〜10と11〜12ではプレイヤーが「罠」と言うもののやれるものが違ってくるだろう。例えば落とし穴なんて短時間では無理だよね。音も出るし……みたいな。
もちろんオークの能力値や、パーティーの登場人物(戦士・魔道士・盗賊)は元々あるので、フツーのバトルならここまで七面倒なことはしない。サイコロの出目とダメージの換算表みたいなのがあって、出した目の合計値で戦闘したりするようだ――が、まあそれでも面倒ですよね? でもこの面倒臭さを皆でワイワイやりながら楽しむのがTRPGだとわたしは認識している。
長くなったけど本題に戻ると、声でゲームが案内される、駒とサイコロとカードだけでゲームが進んでいくといったTRPGの「雰囲気」は出ていると思う。しかし率直に言って、本作はTRPGが持っている魅力を十分に引き出せているとは言えないだろう。
上記と同じようなこと(つまりTRPGにおけるGMの役割をテレビゲームで実現すること)は、高度なAIが必要なため、2050年でも厳しそうなんだけどね。