三宅乱丈『ペット リマスター・エディション』全5巻

ペット リマスター・エディション全5巻 完結セット  (BEAM COMIX)

ペット リマスター・エディション全5巻 完結セット (BEAM COMIX)

リマスター

元々『ペット』という超能力をモチーフとした作品があったのだが、やや消化不良気味に終わってしまい、残念だなと思っていた。しかし先日『イムリ』を最新刊まで買い直して読んだところ、Amazonから『ペット リマスター・エディション』が出ているとリコメンドされ、思わず購入した次第。
10年ぶりぐらいに読んだので、どの描写が追加・変更されているのかを明確に指摘することはできないが、リマスターされるのに伴い、150ページ以上も新規に書き下ろされているようだ。以前に感じたラストの駆け足感も(ほぼ)なくなっていた。

感想

本作は超能力がモチーフと書いたが、テレキネシスや透視・予知が登場するわけではない。ここでの能力とは、相手の記憶を覗き込み、入り込むチカラを指す。ペットと呼ばれる能力者たちは、(まるで催眠術のように)こちらの意図どおりに相手を意のままに動かすだけでなく、場合によっては記憶の改変や人格の破壊もできる。
また、本作には「ヤマ」と「タニ」という概念がある。その人を支え続ける記憶が「ヤマ」であり、逆に、その人を痛め続ける記憶が「タニ」である。簡単に書くと「ヤマ」はその人にとって最も幸せな記憶で、「タニ」は触れられたくないトラウマである。しかし「ヤマ」と「タニ」はどちらも、その人の人格形成のコアとなる記憶である。彼ら能力者は、ちょっとした記憶の改変はお手の物だが、「ヤマ」や「タニ」の改変はかなり慎重に行わなければならない。何しろ人格形成に直結している記憶なので、下手にいじって記憶に矛盾が生じれば、人格が崩壊するからである。
1巻のハイライトとして、主人公たちがトラブルを揉み消すためにターゲットの「ヤマ」を改変するエピソードがある。主人公たちは「巧く」やってのけたので、ターゲットの記憶は主人公たちに都合良く塗り替えられ、人格は崩壊しなかった。しかしターゲットの「ヤマ」の景色は変わってしまった。少女漫画のように花が舞い落ちる鮮やかで華やかな景色から、日の入り前の静かな夕焼けの景色に……。どちらも「ヤマ」には違いない。その人を支え続ける、幸せで美しい景色である。しかし私は、改変された「ヤマ」の景色を見て、涙がほろりとこぼれるほどの切なさを感じた。
人の人格が「ヤマ」と「タニ」から出来ているという三宅乱丈のセンスは極めて鋭い。

余談

あとがきによれば、本作は全3部構成のようだ。1部(の一部)と2部は本作で読めるが、3部は全く発表されておらず、機会があれば3部を描きたいそうだ。私としても読みたいなあ。