インキュベ日記

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待鳥聡史『代議制民主主義 「民意」と「政治家」を問い直す』

代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)

代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)

文字通り、代議制民主主義について解説した本だ。序章を引用して、簡単に本書の前提を確認しておきたい。

 民主主義とは、社会を構成するすべての成人が、その過程に関与する権利を持つ決定の方式である。単純に、有権者の意思を反映した政策決定の方法、と言い換えても構わない。そして、代議制民主主義とは民主主義の具体的な仕組みの一つである。代議制民主主義の下では、有権者が選挙を通じて政治家を選び、政治家が実際の政策決定を行う。政治家が決めた政策を実施するよう任されるのが官僚である。

要は「有権者」と「政治家」と「官僚」の関係に着目しながら、代議制民主主義の本質を探ろうとしている。この手の議論はふわっとしてしまいがちだが、大学教授らしく、かっちりとした構成である。良書と言って良いだろう。その証拠……というわけでもないが、今度は「終章」の冒頭を引用してみたい。代議制民主主義の本質というか理想像を端的に示した箇所である。これを読むと、選ばれた政治家は、単に有権者の声をよく聞いて代弁するだけの「犬」では駄目だということがよくわかる。そもそも大衆は、必ずしも日本社会にとって最良な政策ばかりを支持するわけではないからだ。プロフェッショナルとしての自律と、有権者の意向の反映。あるいは有権者→政治家→官僚への委任関係と、官僚→政治家→有権者への説明責任。そのバランスが機能していることが重要なのだ。

 ここまで見てきたように、代議制民主主義とは、アクター間の委任と責任の連鎖関係によって、政策決定を行う仕組みである。その連鎖は、主権者である有権者から、政策決定者である政治家を経て、実施担当者である官僚に至るまでつながっている。
 有権者は直接的には政治家を選任し、彼らに政策決定の相当部分を委ねているが、委ねた際に期待したように政策を決めてくれているかどうかを確認する権限は留保している。政治家の側から見れば、具体的な決定について毎回有権者の意向を問う必要はないが、委ねられた際の期待に見合った決定をしていることを有権者に説明し、納得してもらう責任が常に存在する。政治家と官僚との関係も同様である。政治家は官僚の専門能力に期待し、彼らに政策立案や政策実施についての具体的な判断を広い範囲で委ねているが、その期待に見合った判断になっているかどうかの説明責任も負わせている。
 そこでは、委任される側(委任先、代理人)である政治家や官僚が、委任する側(委任元、本人)である有権者や政治家の期待に応えることで責任を果たせるため、代理人には裁量や自律的な判断の余地が残る。しかし同時に、代理人が好き勝手にできるわけではなく、本人の期待からかけ離れた行動は許されていない。政治家や官僚は自律性を持つが、独りよがりな行動をしていては説明責任を果たすことはできず、落選や左遷といった制裁を受ける。それが、エリート間の競争と相互抑制という自由主義的要素と、有権者の意向を反映させた政策決定を目指す民主主義的要素のバランスをとりながら政治を進めようとすることにつながる。代議制民主主義は、アクターの誘因をよく考えた、本来的に巧みな制度である。

順序が逆になったが、最後に目次を書いておく。

  • 序章 代議制民主主義への疑問——議会なんて要らない?
  • 第1章 歴史から読み解く——自由主義と民主主義の両輪
    • 1 近代議会の成立と発展
    • 2 大統領制と議院内閣制
    • 3 拡大する代議制民主主義
    • 4 代犠牲民主主義の黄金期
  • 第2章 課題から読み解く——危機の実態と変革の模索
    • 1 動揺の時代
    • 2 変革の試み
    • 3 目立つ機能不全
    • 4 危機への対応
  • 第3章 制度から読み解く——その構造と四類型
    • 1 代犠牲民主主義の基本構造
    • 2 代犠牲民主主義を分類する
    • 3 制度と政党
    • 4 四類型を考える
  • 第4章 将来を読み解く——改革のゆくえ
    • 1 三つの「症状」
    • 2 執政制度の改革
    • 3 選挙制度の改革
  • 終章 代議制民主主義の存在意義——バランスの視点から

この目次と、上記のような読者に媚びない硬質な文体。すなわち一冊を通して息を抜く箇所がほとんどない。間違いなく良書で、熟議民主主義のような最近話題のトピックも学べて勉強にもなり、難解というわけでもないのだが、読み通すのは意外に疲れる……と、念のため申し添えておきたい。

余談(でもないが、まあ脇道かな)

本書を読みながら、私は人気ブログ「ゆとりずむ」の以下のエントリーを思い出していた。
lacucaracha.hatenablog.com

このエントリーでは、タイトルの通り、民主主義の基本はいかに『多数決』をしないかだという主張がなされていた。私は当時、このエントリーは「民主主義」と「民主主義の一形態である代議制民主主義」が混同されていると感じるとともに、多数決をやるか否か(全会一致であるか否か)は(少なくとも私個人にとって)本質的な問題ではないとも感じたのだが、その感覚を上手く言語化できなかった。

もう少し丁寧に書くと、私にとっての民主主義の基本は、多数決で決めることではない。しかし全会一致でもないのだ。もちろん安易な強行採決を是認するつもりはないけれど、一方はっきりと言えば、議論を尽くすことですらない。今の日本の政治家やマスコミのレベルでは、仮に議論を尽くすだけの時間を費やしたところで、議論は大して深まっていないからだ。とりあえずしばらく声を聞いとくかという与党と、反対のための反対に終始する野党では、3ヶ月議論したところで最初の数週間で出された以上の論点は出てこない。だから今の日本の代議制民主主義は、議論に耐え得る人材が政治家になっていない時点で破綻ないしそれに準じた状態と言って良いのだから、多数決をせずに議論を深めて全会一致が基本だよと言われても、それは基本ではなくて綺麗事だよねというのが私の感覚であった。

しかし本書を読んだ今なら、もう少しだけ上手く言語化できる。結局のところ、本書が述べていた「委任」と「責任」の連鎖関係の機能に尽きると言って良い。少なくとも、私自身は政治的な問題にそれほど時間を割きたくないから、直接民主制を標榜して事あるごとに年に何度も住民投票・国民投票を実施されても困るし、熟議民主主義の積極導入も個人的には「?」である。熟議民主主義への理解が足りないと言われようとも、今の政治家以上に無能な人々を永田町に送り込み、今以上に時間を浪費して無為な議論をするという発想そのものが、私には生理的に耐えられないものである。無能と無能がいくら議論を尽くしてもアウフヘーベンは起こらないのだ。

私にとっての民主主義の基本とは、代議制民主主義の理念そのものであり、私が信頼できると判断した政治家への「委任」、ただそれだけである。もっと言うと、役割分担であり、分業である。その政治家は、野心にまみれて私の声を完全に無視するようでは困るが、専門家ではない私レベルの有権者の声をただ代弁するだけなのも困る。プロとして、素人考えを適度に超えた立案・判断・行動をしてくれる政治家が質・量の面でどれだけ存在するかが、私にとっては重要なのである。

まあ問題は、そういう政治家がほとんど見当たらないことなんだけどね……。政治に関する話をすると最後は必ずその隘路で立ち往生し、村上春樹の一節を引用して終わることになるのです。

 どうして選挙の投票をしないのかという彼ら(僕を含めて)の理由はだいたい同じである。まず第一に選択肢の質があまりにも不毛なこと、第二に現在おこなわれている選挙の内容そのものがかなりうさん臭く、信頼感を抱けないことである。とくに我々の世代には例の「ストリート・ファイティング」の経験を持つ人が多いし、終始「選挙なんて欺瞞だ」とアジられてきたわけだから、年をとって落ちついてもなかなかすんなりとは投票所に行けない。政党の縦割りとは無関係に一本どっこでやってきたんだという思いもある。何をやったんだと言われると、何をやったのかほとんど覚えてないですけれど。
 もっとも選挙制度そのものを根本的に否定しているわけではないから、何か明確な争点があって、現在の政党縦割りの図式がなければ、我々は投票に行くことになるだろうと思う。しかしこれまでのところ一度としてそういうケースはなかった。よく棄権が多いのは民主主義の衰退だと言う人がいるけれど、僕に言わせればそういうケースを提供することができなかった社会のシステムそのものの中に民主主義衰退の原因がある。たてまえ論で棄権者のみに責任を押しつけるのは筋違いというものだろう。マイナス4とマイナス3のどちらかを選ぶために投票所まで行けっていわれたって、行かないよ、そんなの。
incubator.hatenablog.com

余談

私以外にはすごくどうでも良いことなんだが、本来これは、書籍の2558冊目のはずなんだが、漫画の3407冊目としてURLを振ってしまったことに今さら気づいてしまった……痛恨。今からだと結構な日数のブログの記事を消したり再投稿したりしなきゃならんので、それは諦めて、これを書籍の2561冊目」としてカウントしよう。ってか漫画の3407冊目の欠番についても確認・対応しなきゃ。あーめんど。ブログそのものでしか管理していないので、Excelとかでも管理しとけば良かったなー。2週間ぐらい休暇があれば、ゼロから打ち込むんだけど。