川田『火ノ丸相撲』12巻

火ノ丸相撲 12 (ジャンプコミックスDIGITAL)

火ノ丸相撲 12 (ジャンプコミックスDIGITAL)

アツい相撲漫画。

インターハイ団体戦でも主人公のチームはブイブイ言わせているのだが、完全に「少年ジャンプらしさ」に乗っかってしまっており、こうなると正直、興ざめしてしまう部分もある。

「少年ジャンプらしさ」とは何か。「友情・努力・勝利」というテーマというかテーゼはよく語られるが、わたしの中ではもうひとつあって、それは「強さのインフレ」である。これは「勝利」を呼び込むための謎論理でもある。

具体的に説明しよう。

登場人物(特に主人公)が、強敵と出会う。自分の力では到底勝てないような強敵だ。通常なら当然負けるのだが、少年ジャンプらしく、友情の力や努力の力が火事場の馬鹿力を生み出し、何とか奇跡的に勝ってしまう。例えるなら、主人公の力が10とした時、敵の力が17とか18なのである。11や12なら戦略次第で勝つ可能性もあるが、17や18なら勝てないはずである。しかし、なぜか勝ってしまう。一時期的に限界突破し、20の力を出してしまうのだ。その後、さらに強い強敵が現れ、そいつは30や35だったりする。主人公は一時的に限界突破して20の力を出したとしても、彼の本来の力は10なのだ。試合で成長したとしても、まあ12とか13ではないだろうか。当然勝てない……とはならない。いつの間にやら、20が彼の強さの地力である「ということ」になり、20からの限界突破が行われる。しかも限界突破量もさらに大袈裟になり、20 vs 35という絶対格差を相手にしても、同じ構図で勝ってしまう。そして、この儀式が2〜3回行われると、これらの限界突破を行わなかった元・強敵はめでたく雑魚敵となるのである。

その結果、どうなるか? 公式戦で5年間未勝利だった小関部長は、全国優勝経験もある名門校であり、去年のインターハイでは団体3位だった金沢北高の部長に、なぜか勝ってしまうのだ。未勝利だったのに!?

勝利の理由は、わたしが見る限り3つ。

  • 以前「成ってしまったらしい」と形容されたように、これまで強敵と戦ったことによる能力の確変
  • 主人公が怪我で離脱している間、負けてはならない(勝ち残った状態で主人公を迎えよう)という発奮
  • 金沢北高の部長に「勢いだけで来た奴らに負けるわけがない」と言われたことによる発奮

勝てるはずがない。

これで勝てたらおかしいだろ。最初の理由は少年ジャンプ理論だし、2つ目と3つ目はただの発奮。発奮で勝てるほど甘くないよね。まあ、あとは確かに小関部長は一人で黙々と5年間トレーニングを積んできたので地力があったという理由も以前使われたことがあるが、名門校の重圧を背負って毎日タフな稽古を積んできた金沢北高の練習の方が軽くなってしまっている。