浅野いにお『ソラニン 新装版』

ソラニン 新装版 (ビッグコミックススペシャル)

ソラニン 新装版 (ビッグコミックススペシャル)

ソラニンという作品はわたしにとって特別な作品だ。いや、わたしだけでなく、多くの同世代もしくはそれより少し下の人間にとって(つまり70年代後半から80年代前半に生まれた人間にとって)バイブルだったんじゃないだろうか。まるでミニシアター系の映画のような手触り感とお洒落感。適度にひねたキャラクターに決してハッピーではない筋書き。しかしバッドエンドというほど救いがたいものでもなく。青臭いものを真正面から書くのは格好悪いけれど敢えて書くのは360度回って格好良いよねという。要はサブカル感ということなのだが。

誤解してほしくないのは、わたしは本作を否定しているわけではない。むしろ愛してきたし、愛している。以前も旧版の感想を書いている。
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わたしは、作者はこう捉えたのではないか……と敢えて皮肉に書いてみたのだ。作者は今も、ソラニンの呪縛に囚われ、ソラニンと同じようなものを作らないように、しかし結局720度や1080度回転した「サブカル臭の強い」作品を描いているようにわたしは思う。しかしその試みは端的に失敗している。『おやすみプンプン』のあのキャラクター造形は結局のところ何年もかけてつまらない漫才を強制的に見させられているようなものだし、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』のドラえもんのパロディーも意味不明だし、主人公が意味不明によだれを垂らしたりしている描写も、はっきり言って哀れだ。青春や現実をストレートに書きたくないだけとしか思えない。

わたしは、今回新装版を出すことで、作者が真の意味でソラニンの呪縛から解き放たれれば良いなと思う。