ほそやゆきの『夏・ユートピアノ』

表題作「夏・ユートピアノ」と「あさがくる」を収録。

これがまたサイコーの漫画だ。

表題作は、ピアノの調律師の娘として生まれて専門学校も出て就職先も決まったが、「専門(学校)の勉強だけじゃ職業としての調律師ってものがよくわからなかったから」という理由で親元で数年ほど修行している女性が、弱視で引きこもっている同世代のピアニストと出会ってしまった物語。何とも言えない独特の軽さがあり、ナイーブさがあり、ユーモアがある。絵柄も好き。

もうひとつの「あさがくる」は、宝塚を目指して4年間受験を続けたが、ついに受からず、年齢制限で夢破れた20歳手前の女性が主人公。ダンスや歌劇とは関係のないフツーの大学に通おうと受験勉強をしているのだが、別に行きたいものではないから大して身も入らず、さりとて他にやりたいこともなし、また傷が疼くからダンスや歌劇からは離れたいとも思っている。それを見越した親から、優しさで、行きたくもないフツーの大学に通う必要なんて無いんだと言われるが、それもまた辛かったりして。そこまではっきりと言葉で描かれていないのだが、おそらくこういう心情なのだろうと思う。個人的には物凄くわかる。一方、バレエの先生から、宝塚を受けようとする中3の少女の悩み相談や指導を手伝ってほしいと依頼される。彼女は彼女で、面倒な悩みを抱えていて、周囲と巧く折り合えず……と、こういう設定。これがまたくっそ面白い。

早く次の作品を読みたいなあ。