浅見理都『クジャクのダンス、誰が見た?』1巻

冒頭から脱線するが、わたしは警官という存在が嫌いだ。元々ふんわりと嫌いだったが、ある出来事がきっかけで明確に嫌いになった。

社会人1年目か2年目の頃、わたしは東急池上線の洗足池駅というマイナー路線のマイナー駅から徒歩18分という極めて不便な土地に住んでいた。もっと言うと、東急池上線の長原駅からも都営浅草線の西馬込駅からも徒歩20分ぐらいかかるという、23区内では滅多にお目にかかれない奇跡のような陸の孤島だ。よく考えると大して関係ない話だったが、とにかくわたしは洗足池の周辺の14平米しかないクソ狭いアパートに住み、離職率40%のブラック企業で働き、その日も終電で帰宅していた。で、夜中の2時か3時に晩飯を買うためコンビニにチャリで行き、そして帰ってくる際に警官2名に呼び止められた。というかいきなり道を塞がれて、名乗るよう要請され、チャリの防犯登録をしているかどうか聞かれ、していると答えても聞く耳を持たずわたしのものか照会をかけていた。そして身分証の提示を求められた。持っているが家にあると答えると、家まで付いてくると言うので仕方なくチャリを押して歩いて(幸い家まで徒歩1〜2分のところまで来ていた)、身分証を持ってこようと家のドアを開けたら、警官がいきなりドアを持って大きく開け放ち、家の中を覗き込み、そして一言。

「汚いですね」

そう、わたしの家の中は汚かった。少しだけ弁明すると食べ物などのゴミは食べるたびに縛って捨てていたが、散らかっていたのだ。元々あまり整理整頓が得意ではない上、朝から晩まで働き詰めで、さらに14平米という奇跡のような狭さの家である。ビジホでも14平米はあまりないのと、ビジホには家具がない。わたしの家といえば、5畳以下の部屋に本棚4本があり、服をかけるスペースなどないから衣装ケースが数個あり、それでも本と漫画が収まりきらず本と漫画が天井まで積み上がっている状況。ゴミだけは捨てていたが散らかり放題の家だった。しかし警官に自宅を覗き込まれ、しかも汚いなどと言われる筋合いはない。わたしは半ばキレて、言い返した。「警官だったら何の罪も犯していない人間の家の中を勝手に開け放って覗き込んで、しかも汚いなどと失礼な口を聞いても良いんですね。正式に抗議しますのであなたの名前と所属、上司の名前、人事部の連絡先、クレーム担当の連絡先を教えてください」と。警官は急に及び腰になり、「いやぁ、そんなに怒らないでくださいよ」と半笑いで誤魔化そうとしたが、わたしは再度、同じことを言った。

「いやぁ、夜に、自転車を漕いでたもので……」と。

わたしは更に腹が立ち、この法治国家の日本で夜に自転車でコンビニに行くことが何の罪に当たるか明確に説明してください、そもそも無灯火ならともかくあなたは夜にコンビニに行く人全員を呼び止めて職質しているのかと言い返したが、「面倒な人間に職質したな」と思ったのかどうか知らないが、急に夜遅くにすみませんとか言って帰ろうとしたので、わたしは3度目になるが、その警官の名前と所属、上司の名前、人事部の連絡先、クレーム担当の連絡先をわたしに教えるよう警官に伝えた。しかし警官はどれも誤魔化してそそくさと引き上げていった。

わたしは確信した。せいぜい今日も暇だからテキトーに見回りしてテキトーに呼び止めて職質して、チャリの窃盗犯でも見つけたら自分の点数が上がってラッキーぐらいの意識でわたしを呼び止めたに過ぎないのだろうと。しかしわたしはそのせいで寝る時間が(怒りもあって)ほとんどなくなり、翌日の仕事にも支障をきたしたのだが、それに対する保障も謝罪も何もなかった。たまに刑事ドラマを観たり『ハコヅメ』を読んだりして警官へのイメージがふんわり上がることもあるが、基本はごくフツーの奴らかろくでもない奴らが正義を語り、正義を振りかざしているだけで、それ自体ろくでもないことであると。

元々反権力志向ということもあって、それ以来、警官は明確に嫌いである。ついでに言うと、特に個人的な被害を受けたことはないが、マスコミ業界の奴らも、弁護士や裁判官の類も概ね嫌いだ。理由は同じで、正義を語り、振りかざす奴らが嫌いなのである。憎悪していると言うほどではないが、ふんわりと、しかし明確に嫌いなのである。

脱線しまくったが、そろそろ戻ってきます。

もちろん、中にはプロフェッショナリズムを持って働いている方がいることも知っている。以前読んだ『イチケイのカラス』という作品では、司法という難しい領域の中で、苦しみながら働いている人たちがいることを知り、大きな感銘を受けた。その作品を連載していた漫画家の新作が、本作である。

はい、戻ってきた。

本作は、警官の娘が主人公である。冒頭、父親である警官が殺されてしまう。犯人は捕まったのだが、父親の残した遺書には、その犯人は冤罪であると書かれている。悩んだ娘は、父親の残した300万円で、ある弁護士に、捕まった犯人を弁護してもらおうとする――というプロローグである。

フツーならありえない話だ。父親の遺書には、その犯人は冤罪だと書いてあるが、その犯人には動機があり、証拠もある。そして取り調べに対しては黙秘をしている。状況は限りなくクロだ。しかし父親は少なくとも何かを明確に隠している。それが何かを知りたいという思いから、限りなくクロに近い容疑者を弁護する弁護士を、被害者の娘が金を出して雇おうとしているのである。

今後どうなるか想像がつかない。だが、気になる。2巻もゼッタイ買おうと思う。

なお前作『イチケイのカラス』の頃より画力がかなり上がっている気がする。