坂月さかな『星旅少年』3巻

遠未来の宇宙を舞台としたSFファンタジー。

恒星間航行を可能とするほどの技術力を持ちながら、いやだからこそなのか、人口爆発は起こっていないようで、これまでに登場したどの星や都市でも人はまばらである。人類は衰退期・老年期に入ったと言えるだろう。そんな人間社会の中では「トビアスの木」という存在が問題になっている。この木の毒を一定量浴びると、人は眠りから覚めなくなってしまう。そしてその人自身も「トビアスの木」になる――。このようにして、ほとんどの住人が眠ってしまった星は「まどろみの星」と呼ばれている。登録ナンバー「303」と呼ばれる「少年」は、まどろみの星を訪ね、残された文化を記録・保存するプラネタリウム・ゴースト・トラベル社(通称PGT社)で働いている。303には名前がなく、303には「トビアスの木」の毒が効かず、そしてトビアスの木に愛着を抱いている。

本作を読むと、わたしは色々なことを考えさせられる。

少しメタ的な視点に立つならば「ディストピアを美しいものとして描くことは倫理的に正しいことなのだろうか?」という点だ。

正しいとは何だとか、正しくても正しくなくても好きに描いて良いだろうとか、ゲーム脳やアニメ脳・漫画脳が云々とか、もちろんそんなことは百も承知で書いた極私的論点だ。なお強く書き添えておくが、わたしはゲーム脳やアニメ脳・漫画脳の類を一切信じていないし、糞みたいなデマだと思っている。

さて話を戻すと、これは褒めているのだが、本書の世界観は美しくて、寂しくて、何だかんだで魅力的なのである。

こうした静かな世界で暮らしたいと思う人は、疲れ切った現代社会に生きる今の人々の中には多いだろう。

そして作者はこれを「ディストピア」としては描いていないだろう。

老年期における人類のけなげで美しい生き様として捉えているのだろう。