インキュベ日記

書評3100冊・漫画評5500冊・DVD評500枚の「質より量」な記録サイト(稀に質も重視)

御田寺圭『矛盾社会序説』

矛盾社会序説 その「自由」が世界を縛る

矛盾社会序説 その「自由」が世界を縛る

会社勤めの傍ら、ネットで社会批評・コラムのようなものを書いている方らしい。

全部で19の時評があるのだが、通底するのは、「かわいそうランキング」という考え方である。今の社会は、人が「かわいそうだと思うもの」には暴力的までの正論を発揮するが、そうでないものには目を向けない、という冷厳なる指摘だ。例えば、パンダやクジラといったかわいそうランキング上位の動物には皆ギャーギャー言うのだが、その一方で、ゴキブリに似たコオロギ、ヘビ、両生類みたいなものが絶滅しようが誰も気にも止めない、と著者は言う。同様に、日本人の男性は家事をしないといったわかりやすいストーリーに包まれたかわいそうランキング上位の自称には皆ギャーギャー言うのだが、そもそも男性と女性の労働時間+家事時間の合計は殆どイコールであるという事実には誰も注意を向けていない。

なるほど、と思った。

はてなーでブン回されている「ポリコレ棒」にも似ているな、と思った。

ポリコレとは「ポリティカルコネクトネス(政治的・社会的な正しさ)」の略である。つまり本来ポリコレで言う「正しさ」とは、「公正・中立・妥当」あたりを意味するはずなのだが、いつの間にかリベラルな人たちが気になるテーマにおいてのみ正論をブン回すという現象が各地で見られている。その「正論」ありきの乱暴なロジックや態度をもって、社会主義国の治安警察が持つ警棒をイメージして「ポリコレ棒」という言葉が生まれたのだとわたしは理解している。

閑話休題。かわいそうランキング上位だけを見る姿勢は、いつかしっぺ返しを食らう、という著者のスタンスは、バランス感覚があって良いと思う。次の本も読んでみたい。

デロイトトーマツコンサルティング株式会社『要員・人件費の戦略的マネジメント』

要員・人件費の戦略的マネジメント (労政時報選書)

要員・人件費の戦略的マネジメント (労政時報選書)

  • 作者: デロイトトーマツコンサルティング株式会社,岡本努
  • 出版社/メーカー: 労務行政
  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
要員管理・人件費管理について、これまで読んできた類書の中で、最も「人事マンっぽくないアプローチ」で書かれている。

だからこそ良い本だと思った。

例えば、労働分配率は確かに良い指標かも知れないが、昨今は、アウトソース・派遣社員活用・コンサル利用・請負契約等々、表面的には労働分配率が低くても高コスト体質(より正確には高・マンパワー体質)が変わっていないというケースがよく見られており、「労働分配率ありき」の議論にわたしは疑問を覚えるのである。同様に、適正な労働分配率の算出だとか、適正な直間比率だとか、その手の指標の水準ありきの考え方にも疑問を覚える。

そんな中、本書は、あくまでも戦略的な視点から大上段で語っており、あまり微細な手続きに深入りしていない。個人的には、この程度の解像度の方が読者に求められていると思う。

余談

本書を書いた人が最近、労政時報という人事・労務の専門誌(正確にはそのWEB版)で、要員・人件費管理の連載をしていたので、参考までリンクを張っておく。タイトルは「“未来型”要員・人件費マネジメントのデザイン」である。

www.rosei.jp

わたしが上記で書いた疑問は、要するに「狭義の人件費だけを分析したり水準を云々しても意味が無いだろう」というものだが、このWEB連載でもわたしのこの疑問にはしっかりと答えてくれている。WEB版の連載を読んでから本書を手に取るのも良いかもしれない。なお、WEB版の方は、前半は凄くしっくり来たのだが、後半は「ここでのテーマは要員・人件費だよね?」という感じで、かなりピンぼけしている気がする。少なくとも、要員や人件費について考えを整理したいというニーズは満たせない。

その意味では、WEB連載よりは本の方が良かったかも。

窪田千貫『要員計画の立て方と総額人件費管理』

要員計画の立て方と総額人件費管理―余剰人員か人手不足か

要員計画の立て方と総額人件費管理―余剰人員か人手不足か

この窪田千貫という人は、類書の少ない経営管理テーマをごりっと深掘りした本を書く人だという印象。正直ちょっと難解というか、実務をやっていないとわからない記述も多いのだが、これまでも「価格戦略」「損益分岐点戦略」「人件費支払限度(いわゆる適性人件費)」「適正な原価の見積もり方」などをテーマに本を出している。

最近、要員計画や総額人件費管理をテーマに本を読み散らかしており、本書もわたしの興味・関心的にはピンポイントで合致している……はず、なのだが、どうもピンと来ない。なぜ直間比率は9:1なのか?

メンタリストDaiGo『最短の時間で最大の成果を手に入れる 超効率勉強法』

最短の時間で最大の成果を手に入れる 超効率勉強法

最短の時間で最大の成果を手に入れる 超効率勉強法

まとめ

下の方でいつも通りダラダラっと感想を書いたが、ノウハウをブレットポイントでまとめたくなったので作成。

  • 教科書に線を引く、語呂合わせ、テキストの再読、集中学習、忘れる前の復習などは全て非効率。授業を聞きながらノートを取る、聞き流すだけで良い、といった受け身の勉強法全般もNG。
  • 効果の高い勉強法を一言で書くと、自分なりに頭を使いながら積極的に学ぶ「アクティブラーニング」に帰着する。そして勉強をアクティブラーニング化する方法は概ね「想起」と「再言語化」に集約できる。
  • 想起を促す勉強テクは以下の3つ(派生系も入れると4つ)
    • クイズ化(勉強の度に自分でミニテストを作成)
    • 分散学習(復習の間隔を少しずつ伸ばし、一度に覚えようとしない)
    • 分散学習の派生:インターリービング(複数ジャンルを同時並行で勉強)
      • ひとつの領域だけの勉強を狭く行うブロック学習は脳への刺激が単純化され、脳のパフォーマンスが落ちてしまう
      • ただし手を広げ過ぎると勉強が進まない等の弊害もあるため、通常はジャンルを3種類までに絞り込むのが良い(英語の勉強ならライティング→文法→リスニングと3つのジャンルで勉強セットを作成)
      • ジャンルごとの勉強時間は等分
    • チャンク化(自分なりのルールでグルーピングして構造的に知識を理解)
  • 再言語化を促す勉強テクは以下の3つ
    • 自己解説(学びたい内容をリスト化→WHYやHOWで常に自問自答→確認テスト(上のクイズ化か)
    • ティーチング・テクニック(わたしがこのブログで何度か取り上げている相互教授法のこと、なお「相手がいると仮定して声に出す(ラバーダック勉強法)」や「後で他人に教えるつもりで勉強」でも効果有、また複雑・難解な内容を整理するには「10歳児教授法」が有効)
    • イメージング(架空のディベート番組のイメージ、友人や家族がこの問題に関わっているとイメージ、英文の主人公を全て「私」に置き換える等により、より具体的・俯瞰的に物事を理解)
  • 勉強前の準備テクも重要で、要するに(とのことだが、音楽云々のわたしがあまり興味が無いテクも多いので2つだけ記載)
    • 自己超越目標(自分の身の丈を超えた大きな目的やゴール)を書き出すことでモチベーションの質が変化し、勉強効果UP
    • 自分が知っていることを毎回勉強前に書き出す(注:自分がこれから覚えるべきことの書き出しではない)
  • 勉強後の過ごし方テクも重要(とのことだが、要するに休むときは徹底的に休んでメリハリつけろという話に尽きるので詳細は割愛)
  • 「上級テク」も書かれているが、要するに上記で書いたことのバリエーションにすぎないので詳細は割愛(話しかけるつもりでの音読、五感をフルに活用、ジェスチャー等)
  • 上記の他、さらに「ワーキングメモリ性能アップ」や「成長マインドセット」についての記載もあるが、やはり上記のバリエーションか、勉強法そのものとは外れた内容のため、詳細は割愛

感想

先日読んだ『人生を思い通りに操る 片づけの心理法則』に続き、メンタリストDaiGoの本を読むのは2冊目。わたしは勉強法や記憶術の本をこれまで何度か読んでいるため、その本と被るところが多いのだが、本書は(体験談ではなく)科学的なエビデンスのある勉強法や記憶術を紹介しているという点で、良い本ではないかと思う。

なお、色々とTIPS的なアドバイスも多いのだが、数十もの「良いやり方」を取り入れるのは大変なので、わたしがこの手の本を読む際は、その原則となるものを把握しようとしている。本書でわたしが理解したのは、「想起」と「再言語化」という2つのキーワードだ。

まず「想起」というのは、六波羅穣『一流の記憶法 あなたの頭が劇的に良くなり「天才への扉」がひらく』にも書かれていた点だが、要するに「思い出そうとすること」により、記憶されるということだ。

incubator.hatenablog.com

え、当たり前? そんなことはない。世の中には「一度見ただけで忘れない」とか「聞き流すだけで覚えられる」といったキーワードが溢れているではないか。しかし脳の仕組みの原則は「思い出そう」とした際に、脳に深く書き込まれるという先ほどの話を思い出せば、よほどショッキングなものでない限り、そのような勉強法や記憶術は間違いであることがわかる。そしてこの原則を理解すれば、例えば、子供の復習のタイミングは「授業の直後」や「放課後即帰宅→帰宅直後」ではないことがよくわかる。忘れていない状態で教科書やノートを読み返しても、脳はその時点ではしっかり覚えているわけで、思い出そうとする「想起」という脳への刺激が起こらないからだ。一方、完全に忘れた後で復習しても、それはそれで新規に学び直すのと変わらないから、勉強の効率が悪くなる。すなわち「忘れかけた状態」が最も復習に適しているのである(理解していないことの理解を深めるという意味では、もちろん授業の直後に復習をする意味はある。

次に「再言語化」は、要するに自分の言葉で整理しようというものだ。

再言語化の効果については、ノートを綺麗に&完璧に取っていた同級生の成績が必ずしも良くなかったというケースを思い出せば、理解しやすいだろう。彼ら/彼女らは、単に黒板に書かれた内容を綺麗にノートテイクしていただけで、自分の言葉で理解しようという再言語化が起こっていなかったのである。単純作業であり、受け身の学びだった、と言って良いだろう。他にも、わたしが塾講師時代から活用していた「相互教授法」の正しさも、この「再言語化」で説明できる。相互教授法とは友達同士で教え合うことである。自分で「わかったつもり」になっていても、いざ教えようとすると、上手く行かないことが多々ある。これは単なる説明能力の不足ではなく、「わかったつもりだったけどわかっていなかったこと」が他人への説明・教授という行為を通して炙り出されるのである。そして自分の言葉で説明し直すこと(つまり再言語化)で、理解が促進される。付け加えるならば、本書で強調されている「クイズ化」も、要するに再言語化であり、名付けるなら自分自身を教える「自己教授法」と言って良いだろう。

なお、本書の内容は当然「想起」と「再言語化」だけではない。もうひとつだけわたしが「使えそう」だと思ったアイデアを挙げるならば、脳には緊張モードと緩和モードのようなものがあり、緊張モードの際にしっかり物事をインプットした後、緩和モードの時間帯に脳内で知識の整理整頓が起こり、理解や記憶強化が発生するというものだ。要するにメリハリなのだが、寝る前と起きた後に勉強するとか、パワーナップ(ランチ後の昼寝をする)とか、勉強の前後に軽い運動をするとかも、要するにこのメリハリに帰結するような気がする。

メンタリストDaiGo『人生を思い通りに操る 片づけの心理法則』

人生を思い通りに操る 片づけの心理法則

人生を思い通りに操る 片づけの心理法則

著者については正直ほとんど知らないが、「一時期テレビによく出ていたらしい」「最近はテレビにあまり出なくなった代わりに自己啓発チックな本で稼いでいるらしい」ということは知っていた。正直タレント崩れだと思っていた。

で、たまたま本屋でチラ見して「まともなこと書いている気がする」と思って手に取った次第。片付けについては何だかんだと色々と本を読んでおり、新たな驚きは少なかったが、わかりやすく整理されていておすすめできる。

門田修平『外国語を話せるようになるしくみ シャドーイングが言語習得を促進するメカニズム』

第二言語習得の研究をしている著者による新書。以前読んだ本でも、第二言語は母語とは異なる習得の仕方になるということが書かれており、個人的には気になるテーマである。

incubator.hatenablog.com

なぜ気になるテーマなのかというと、もう端的に、相当な馬鹿や努力しない人間でも世界中の人類の大半が母語をすんなり習得できている一方、第二言語になると、わたしのようにそれなりに努力している人間でも一向に習得できない、というその違いである。もちろんやり方が良くないだとか、そもそもこの手の本ばかり読んでいて実際のトレーニングの時間が少ないとか、色々あるのはわかっているんだけど、それでも、もう少しスッと大人間語を習得できて良いんじゃないかと思うわけですよ、ええ。

閑話休題。そんな中、本書は、第二言語習得の研究をしている著者がシャドーイングを徹底的にやったらどうなるかというのをまとめている本だというので、気になって買ってみた次第。

ここから内容に入るが、著者が言うには、会話をするときには、少なくとも以下3つの同時並行処理が行われているとのことである。

  1. 話し相手の発話を聞いてその発話の文字どおりの意味を理解し、その上でその発話の意図を解釈する 「理解」
  2. 理解した発話の意味や相手の意図をもとに、どのように反応(返事)をするか考える 「概念化」
  3. 言うべき内容(メッセージ)が決まったら、それを言語化して、発音して産出(アウトプット)する 「発話」 ※内容ではなく、どんな単語・文法や構文にするかを決めるのも、この「発話」における言語化の処理のひとつ

わたしは早口だったり難解だったりする英文は当然のこと、簡単かつゆっくりとした英文であっても、最初の数語は良くても2〜3行も音声を聴いているとほぼわからなくなる。また、ちょっと関係代名詞や分詞構文があるともう一気にわからなくなるし、意味のわかる言葉でもスッと思い出すのに手間取ったりするともうお手上げだ。

それはひとつには、よく言われる「返り読み」が挙げられるだろう。英語を、書かれた語順のとおりに理解しなければ、リーディングはともかくリスニングでは太刀打ち出来ないということである。

だが、もうひとつ本書を読んで理解したのは、同時並行処理に慣れていなければ一向に喋れるようにはならないということだ。母語の場合、上記の「理解」と「発話」はほぼ自動的に行われる。「概念化」→「発話」の流れもほとんど瞬間のうちに行われるだろう。

シャドーイングは、「理解」と「発話」を自動的に行えるようにする、いわば外国語の運用を母語に近づけるためのトレーニングである。聴いた言葉を、少し遅れてオウム返しのように発話する。例えば、ラジオ音声や歌を少し遅れて繰り返すことは、母語だとそこら辺の子供でもちょっと練習すればできるようになると思われるが、外国語になると全然できない。それを10万語や100万語のレベルで大量にシャドーイングすることで、まるでネイティブのように自動化できる……それが、著者が述べるシャドーイングのメリットのうち最も大きなものだと思う。

なお、わたしは現在シャドーイングをしているが、著者が言うような「多くの量をこなすシャドーイング」ではない。言うなれば、精聴的なシャドーイングをしている。同じ音源を何度も聴いて、イントネーションやリエゾンを理解し、自分で喋れるようになるまで徹底的に解析する。その後、まずスクリプトを見ながらシャドーイングができるようになり(テキストシャドーイング等と呼ぶらしい)、その後やっと、スクリプトを見ずに本来のシャドーイングができるようになる。当然手間はかかるが、ここまでやると流石にその文章は自分のものになっている。そうやって「手駒」を増やす、そんなイメージである。

慣れてきたら、著者が言う多聴的なシャドーイングも実施してみたい。

補足

この人、けっこう色々な本を出してるな。本書と内容が被りそうだが、ちょっと読んでみたい。

成瀬健生『労働分配率のすべて 100問100答』

労働分配率のすべて100問100答

労働分配率のすべて100問100答

正直、細かすぎてついていけなかった。。。

ひとつだけ明白なのは、わたしは「労働分配率ありき」の議論は好きになれないということである。