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インキュベ日記

書評2700冊・漫画評4000冊・DVD評400枚の「質より量」な記録サイト(稀に質も重視)

山田胡瓜『バイナリ畑でつかまえて』

バイナリ畑でつかまえて

バイナリ畑でつかまえて

元々ITmediaというニュースサイトで記者として働いていた経験を活かして(?)SFチックな作品を手がけている漫画家。

書籍版では色々と加筆されたり対談などの追加コンテンツもあったりするようなのだが、一旦Kindle版を購入。1話2ページの掌編が多く、やや物足りない気もするが、巧い。

今は『AIの遺電子』という作品を連載しているようなのだが、こちらも気になってポチッてしまった。

宇都出雅巳『合格る技術』

合格る技術

合格る技術

これで「合格うかる」と読む。

普通は体系的なインプットの参考書を読んで、問題集をやって、最後に過去問を解いて……という発想に行きがちだが、本書のアプローチはそれとは対極である。すなわち、まず過去問の問題と解説を何度も何度も読む。答えを覚え込むぐらい何度も読んでもわからないものについてインプットする。ざっくり言うと、こういう流れである。

これでは当然、100点は取れない。網羅的に勉強していないのだから……。

でもそれで良いではないか。試験の点数は合格点に達すればそれで良く、100点は不要である。試験のためだけに勉強するのは不毛だという声もあるが、そもそも試験は合格するためにやるものであって、ちゃんとした勉強は合格した後で良いではないか……これが本書に通底する発想だ。

わたしは資格の類をほとんど全く持っていないのだが、確かにこういう割り切りが出来る人は強いと思う。

石黒正数『それでも町は廻っている 公式ガイドブック廻覧板』

それでも町は廻っている 公式ガイドブック廻覧板 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 公式ガイドブック廻覧板 (ヤングキングコミックス)

この度、惜しまれつつも完結したそれ町の公式ガイドブック。

はっきり言って素晴らしい。

この手の本は、毒にも薬にもならない作者インタビュー、アシスタントや顔見知りの漫画家からの一言、読者なら当然知っている設定の復習、販促用のPOPに描いたイラスト等の蔵出し、みたいな「ほんっとうにファングッズだね」としか言いようのないものも多い。しかし本書は、一話ごとの作者の解説、(時系列シャッフルの本作らしい)エピソードごとの年表、単行本化を見送ったエピソードの掲載等々、詰め込めるものを全て詰め込んだという感じがする。出版社の想像を超えて売れたようで、(発売日前に予約していたのに)Amazonでもリアル書店でも、発売後1ヶ月以上は品切れが続いていた。

それ町は終わったが、このガイドブックがあれば、これから何年も飽きずに楽しめそうな気がする。

まずは作者の次回作に期待、かな。

石黒正数『それでも町は廻っている』16巻

それでも町は廻っている(16) (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている(16) (ヤングキングコミックス)

極私的に思い切り惜しまれつつも、ついに完結。

時系列シャッフル、藤子・F・不二雄へのオマージュ、SFやミステリへのオマージュなどなど、実験的な要素を幾つも孕んでいつつも、読者に楽しんでもらう作品が良い作品だ(そして描き手も楽しんでいるとなお良い)ということがストレートに伝わってくる、超名作だった。最終巻だけで既に何十回と読み返したが、書きたいことがありすぎて、逆に書けないという矛盾。

今はとにかく、早く作者の続編が読みたい。

それでも町は廻っている 公式ガイドブック廻覧板 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 公式ガイドブック廻覧板 (ヤングキングコミックス)

九井諒子『ダンジョン飯』4巻

ダンジョン飯 4巻<ダンジョン飯> (HARTA COMIX)

ダンジョン飯 4巻<ダンジョン飯> (HARTA COMIX)

リアルでないものにリアルを求めると、やり方次第ではコメディになる。

それなら、ファンタジーにリアルを求めたら、やはり面白くなるのではないか?

それを世に知らしめた作品が本作である。

直接的な影響があるかどうかは不明だが、明らかに同種の系譜にあるものとして、先日も紹介したグレゴリウス『竜と勇者と配達人』や、西義之『ライカンスロープ冒険保険』がある。これらは明らかに、めっちゃ面白い!
incubator.hatenablog.com

ライカンスロープ冒険保険 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

ライカンスロープ冒険保険 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

山本さほ『岡崎に捧ぐ』3巻

岡崎に捧ぐ(3) (コミックス単行本)

岡崎に捧ぐ(3) (コミックス単行本)

ちょっとだけエキセントリックな親友との交遊を中心とした自叙伝的な作品。これで完結とのことだが、めっちゃ面白かった。こういうバカなことって年齢が上がるとともにだんだんやらなくなっていくんだよね。でも結局こういう何気ない話を友達としているのが結局イチバン面白かったりする。

グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』1巻

竜と勇者と配達人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

竜と勇者と配達人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

これは!

めっちゃ面白い!

最近「なろう系」という、異世界ファンタジーものが流行っていると聞く。21世紀の現代社会から突然、剣と魔法のファンタジー世界に飛ばされ、しかしそんなことどうでも良いということで説明も設定もアッサリと割愛され、でも転送された主人公たちは(普通なら剣と魔法のファンタジー世界の住人の方が体力的にもスキル的にも明らかに現代社会の人間よりも高スペックなはずなのに)ファンタジー世界でいきなり無双する、それを楽しむ、というジャンルである。要は、リアリティも必然性も要らないから、ただただ自分が異世界に飛ばされて活躍できたらという妄想を叶えてくれる物語を提供する、それが「なろう系」なのである。*1

本作はそうした作品の真逆にあるアプローチと言って良い。

本作の根底にあるのは、勇者だの僧侶だのと言っても、勇者は「職業」なのだ、という厳然たる事実である。すなわち彼らは、生きる糧として働いている。勇者としてモンスターを討伐する行為、それはサービス提供活動であり、経済活動なのだ。

だから勇者の行く手にはモンスターがいるが、勇者の通った後にはまるで参勤交代のごとく多くの人々が群れをなしてついてくる。パーティー御一行の武器を持ち運ぶ人、パーティーの経験値を記録する人、後方部隊の食事を作って提供する人、その食事のための食材を持ち運び提供する人……中には戦闘に勝った後(あるいは負けた後)に鳴らされるファンファーレ係なんていうのもある。そして勇者がドラゴンを倒した後がまた凄い。ドラゴンの牙・角・鱗・涎などがすぐさま競りにかけられ、日持ちしない肉を解体して持ち運ぶための部隊が街から派遣される。そして主人公はタイトルにある通り、配達人である。勇者のパーティー御一行と一緒に従軍していたが、勇者がドラゴンを倒した事実、すなわち「ドラゴンの死体」という「金塊」があることを知らせる手紙を各所に配達するのである。*2

勇者は世界を救うだけではない。後についてきた人々の懐を潤わせる存在なのだ。

もちろんそうした後方部隊も命がけである。何しろ勇者や戦士と違って、ただの経験値記録官や荷物持ちは、ドラゴンどころかその辺のモンスターにすら勝てないだろう。勇者や戦士が全滅したら、彼らはおそらく生きて街まで帰ることはできまい。しかし彼らは、勇者や戦士の経験値を記録するのが仕事であり、荷物を運ぶことが仕事である。彼らは彼らの戦場を戦っているのである。だから非戦闘職業の人々も、勇者や戦士が戦う間近で彼らを見守り、決して逃げることはない。

何たるリアリティ!

そして何たる夢と希望! この夢と希望は決してバラ色ではなく、手垢にまみれた金色の浪漫なのだ。

これは続きも必読だね。

余談

先日、丸の内オアゾの丸善で『中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク』という本が平積みされており、直感的に凄く気になっていたのだが、その作者は本作と同じグレゴリウス山田であることが判明。んー、十三世紀のハローワークはKindleなしかー。紙の本はかさばるからKindleで買いたいんだが、大版なので紙の方が読みやすいかも。Kindle化されるのを待たずに今すぐ買うべきか迷う。

中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク

中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク

*1:当然そうしたジャンルとしての底の浅さを逆手に取った作品もあり、それらも「なろう系」として一括りにされているので一概には言えないのだが。まあ今回は、その辺にあまり詳しくないわたしのような人間の一般的イメージだとして捉えていただきたい。

*2:主人公は勇者専属の配達人というわけではなく、普段は普通の手紙を普通に配達していることが多い。ただしファンタジー世界なので住所がまだはっきりしていないことも多く、モンスターの巣食う地域に配達することもある。