インキュベ日記

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長田佳奈『つれづれ花譚』

つれづれ花譚 【かきおろし漫画付】 (主任がゆく!スペシャル)

つれづれ花譚 【かきおろし漫画付】 (主任がゆく!スペシャル)

大正時代の日常を描いた『こうふく画報』の続編。

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まあ大きな物語は何も起きないタイプの漫画なので、好きな人は好き、嫌いな人は嫌い、と好みがはっきり分かれるだろう。わたしは当然、大好物である。

なお、本作を読んで明治時代や大正時代に興味を持った方には、明治時代や大正時代の「和洋折衷」な魅力をストーリーとともに楽しみたいなら『ニュクスの角灯ランタン』を推薦したい。一方、とにかく服飾文化に没頭したいなら『日本のファッション 明治・大正・昭和・平成』を推薦したい。どちらも絶品。

日本のファッション 明治・大正・昭和・平成

日本のファッション 明治・大正・昭和・平成

新装改訂版 日本のファッション (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)

新装改訂版 日本のファッション (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)

  • 作者: 城一夫(共立女子短期大学名誉教授),渡辺直樹
  • 出版社/メーカー: 青幻舎
  • 発売日: 2014/03/03
  • メディア: ペーパーバック
  • この商品を含むブログを見る

杉谷庄吾『映画大好きフランちゃん』

映画大好きフランちゃん NYALLYWOOD STUDIOS SERIES

映画大好きフランちゃん NYALLYWOOD STUDIOS SERIES

『映画大好きポンポさん』という極私的名作があるんだが、その続編。

前作『ポンポさん』は主に映画監督やプロデューサーにスポットライトが当たっていたわけだが、この『フランちゃん』はタイトルどおり、フランちゃんという女優志望のウェイトレスが主人公である(実質的には主人公は本作もポンポさんなのかもしれないが)。

女優志望なんだけど「貧乏だから」「経験がないから」「能力がないから」「チャンスがないから」と、色々と自分を慰めちゃうフランちゃん。

わかる。

わかるけど、この世の中、それを乗り越えて自分で自分にプレッシャーをかけ続けるしか、傑出することはできないんじゃないかと思う。上司や会社など、外部要因のせいにして愚痴をこぼすような余地はここにはない。

あ、誤解されると嫌なので予め補足しておくが、わたしは外部環境のせいにして愚痴をこぼすことも、待遇が釣り合わないと愚痴をこぼすことも、凡庸であろうとすることも、何の否定もしない。全部その人の自由だ。わたしだってやる。しかし凡庸であることを自分自身で良しとしておきながら、凡庸な待遇に文句を言うのは、わたしは違うと思う。例えば、わたしはホリエモンもZOZOの前澤も好きな人間ではないが、社会にイノベーションを残した偉大な人間だと思う。彼らは他人から色々と言われているが、死に物狂いで傑出したアウトプットを残した結果、傑出したリターンを得た。それで何の問題もないではないか。ケチをつけるのは嫉妬・僻みの類であろう。

繰り返すが、インプットもアウトプットもスループットも凡庸で、リターンだけ傑出するなどという都合の良い世界線は、わたしは基本的に存在しないと思う。コネやラッキーも含めて自分の実力であるわけだし、仮に短期的に「都合の良い世界線」に移動できたとしても、数年で落ち着くべきところに落ち着くだろう。このフランちゃんだってそうだ。大変かもしれないし、愚痴を言いたくなることもある。理不尽なこともある。しかし、仮にそうだとしても結局は自分が傑出するしか成功に至る道筋は存在しないのである。

こっちも面白い。おすすめ。

高浜寛『ニュクスの角灯』6巻

ニュクスの角灯 (6) (SPコミックス)

ニュクスの角灯 (6) (SPコミックス)

角灯と書いてランタンと読む。角灯ランタン

「長崎とパリを舞台に描く明治アンティーク浪漫」というのはAmazonの作品紹介に書かれていた煽り文句そのままだが、こういうのを読むと、世界中を取り込んでなお「らしさ」を失わない日本の美というか美意識は凄いなと感心してしまう。平安、鎌倉、室町・戦国、江戸、明治、大正……と、その都度違っており、溜め息が出てしまう。といっても、これなんかは海外の人から見たら一括りで「ジャポニズム」なんだろうね。我々がヨーロッパの時代や地方の細かな区別がつかないように。わたしはとりわけ、明治・大正浪漫と呼ばれる日本文化と西欧文化が入り交じる感じが非常に好きで、この作品なんかは読むだけで眼福である。

……と、やや脱線したが、本作もこれで最終巻。途中、個人的には「誰が主人公なんだ?」と混乱するというか、どこに焦点を当てて読めば良いか迷うところがあったのだが、「この時代そのもの」を描いていたと思えば、それもまた頷けるアプローチである。

高浜寛という漫画家は非常に稀有だと思うので、また次の作品にも期待したい。

余談

本作を読んで、明治・大正に萌えちゃった方は、長田佳奈の『こうふく画報』と『つれづれ花譚』を読みましょう。

こうふく画報 (主任がゆく!スペシャル)

こうふく画報 (主任がゆく!スペシャル)

つれづれ花譚 【かきおろし漫画付】 (主任がゆく!スペシャル)

つれづれ花譚 【かきおろし漫画付】 (主任がゆく!スペシャル)

あとは、極私的名作『日本のファッション 明治・大正・昭和・平成』だね。

日本のファッション 明治・大正・昭和・平成

日本のファッション 明治・大正・昭和・平成

新装改訂版 日本のファッション (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)

新装改訂版 日本のファッション (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)

  • 作者: 城一夫(共立女子短期大学名誉教授),渡辺直樹
  • 出版社/メーカー: 青幻舎
  • 発売日: 2014/03/03
  • メディア: ペーパーバック
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早良朋『へんなものみっけ!』1〜4巻

普通の役所勤務から博物館へ出向することになった公務員の主人公。最初は戸惑うも、だんだん博物館の魅力にハマっていく……というアウトラインか。

いわゆるお仕事漫画とも、動植物あるある漫画とも言えるが、個人的にはけっこう気に入った。

丁寧に続けてほしいと思う一方で、地味なのでもう少し「食い付き」の良いギャグやキャラクターも配置したら良いんじゃないかと思いつつ、まあそんなことしたら本作の魅力がスポイルされてしまうな、と他人ながら要らぬ心配をしてしまう。良い作品なので、作者が満足するまで描き切ってほしい。

相澤いくえ『モディリアーニにお願い』1〜4巻

美大に通う3人の青年を中心とした青春群像劇。

美大・芸大を舞台とした漫画作品としてすぐに思い出すのは『ハチミツとクローバー』と『神戸在住』であるが、パッと見の雰囲気は『神戸在住』に近い。リア充っぽくない主人公が、過去や現在の様々な苦しみと向かい合いながら日々を過ごしていく様子が、ざらついた筆致で描かれていく(実はハチクロもリア充漫画とは対極にある話なんだが、この辺を語り出すと日が暮れるので別の機会に)。

『神戸在住』と『モディリアーニにお願い』、どちらの作品も読んでいてわたしの心の深いところと共振する感覚がある。揺さぶるのである。『神戸在住』はわたしの中でのオールタイム・ベスト級の漫画なのだが、この作品が完結する頃には、本作も『神戸在住』と並び立つ極私的傑作になるのかもしれない。

なお、『神戸在住』において阪神・淡路大震災が大きなモチーフであり、いやテーマへと昇華しているのと同様、本作においては東日本大震災が大きなモチーフである。この共通点が、あくまで「たまたま」なのか、相澤いくえの『神戸在住』に対する返歌や本歌取りのようなものなのか、わたしにはよくわからない。ただ、件の震災が多くの人にとって人生を左右するほどの大きな出来事だったことはわたしにもよくわかる。

incubator.hatenablog.com

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米澤穂信『インシテミル』

インシテミル (文春文庫)

インシテミル (文春文庫)

密室環境下でのデス・ゲームを題材としたミステリである。ミステリ界隈では「クローズド・サークル」と呼ぶらしい。

あらすじはこうだ。よくあるアルバイト雑誌に、何らかの実験の治験者として「時給1120百円」で募集がかかる。これは誤字ではなく、実際に時給11万2000円である。説明会に参加しても、前情報を持たずに実験に参加することが重要だとして教えてくれない。しかし時給11万2000円×24時間×7日間の報酬が支払われるという。明らかに怪しい。怪しすぎる。けど世の中にはリスク感度が低い人間や、危険を犯しても大金が欲しい人間もいるので、主人公を含めた12人が結局この「実験」に参加することになる。果たして、この怪しげな「実験」はやはり殺人ゲームであった。ただ、必ずしも殺人をする必要はない。一人ずつに凶器が配られていたり、誰にも気づかれずに殺人を成功させると報酬が2倍になる等の、いやーなルールはあるものの、何もせず1週間を生き延びるだけで数千万円の報酬が得られる。12人は、疑心暗鬼になりながらも、主催者側の意図にハマることなく、皆で相互監視をしながら7日間を生き残ろうやという話をする……というプロローグ。

本格ミステリはあまり読んだことがないが、個人的には面白かった。

しかしミステリ読んでて毎回思うのだが、トリックの類、ぜんぜん気づかんなあ。その瞬間に「ああっ!」となる。近いところまで行くことはあるんだけどねえ。

余談

わたしは知らなかったのだが映画化されているようだ。映画版のレビュースコアはめちゃくちゃ低い(笑)

森玲奈『ワークショップデザインにおける熟達と実践者の育成』

ワークショップデザインにおける熟達と実践者の育成

ワークショップデザインにおける熟達と実践者の育成

「ワークショップ実践者のデザインにおける熟達」に焦点を当てるという、超マニアックな本である。

わたしはそもそも、ピンポイントで「ワークショップ」について特段の関心を持っていたわけではなかったが、本書によればワークショップデザインとは「ワークショップのプログラムを企画し、それに付随する学習環境デザインを行うこと」であり、これ自体が創造的活動であるため、創造的活動における熟達化研究と捉えることが可能、という指摘に興味を持って手に取った。いわゆる企画マンやマーケターに代表される、ビジネス職種の中でも創造的とされている方の熟達とは一体どのようなものか、興味を覚えたからである。

本書は正直、どこまで行ってもワークショップデザインに閉じた研究なので、創造的活動全般に対しての普遍的な何かが導出されているかと問われると、個人的には「うーん」と言わざるを得ない。ただ、ワークショップデザインの熟達化研究というテーマ自体が極めて類例のないものであるし、見方によっては、普遍的な示唆も幾つか得られそうである。

例えば、ベテランと初心者では、ワークショップのデザインの過程に顕著な違いが出ている。ベテランは、依頼内容の確認・解釈やコンセプトを決定し、活動の全体像を決め、タイムスケジュールを決め、細部を決めるといった、いわゆる「大きなものから決めていく」という構造的なアプローチを採っている。一方、初心者は、とにかくいきなり細部の検討に入っていくのである。これはワークショップに限らず、そもそも「企画」の段取り力の高低が顕著に表れている。

また、専門家として深く考え、実践するようになった契機のようなものもインタビューされている。繰り返しの中で一定の知見は当然蓄積されるわけだし、一緒にデザインを協働した方や、他実践者に刺激を受けるのもあるだろう。しかし、「やはりね」と思ったのは、ワークショップ参加者に存在した「気になる人」に刺激を受けて、次回以降のワークショップが深化するという声である。ワークショップは一方的な研修や講義ではなく、双方向の体験である。一方的に学ばせるのではなく、デザインする側も学びを得るのは当然だ。

でもまあ、かなり限られた方しか本書を手にとることはないかもしれないなあ。