ポール・クルーグマン+ジョージ・パパンドレウ+ニュート・ギングリッチ+アーサー・ラッファー『金持ちは税率70%でもいい vs みんな10%課税がいい』

金持ちは税率70%でもいいVSみんな10%課税がいい: 1時間でわかる格差社会の増税論

金持ちは税率70%でもいいVSみんな10%課税がいい: 1時間でわかる格差社会の増税論

  • 作者: ポールクルーグマン,ニュートギングリッチ,アーサーラッファー,ジョージパパンドレウ,Paul Krugman,Arthur Laffer,Newt Gingrich,George Papandreou,町田敦夫
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: 単行本
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カナダの有名な討論番組「ムンク・ディベート」において、「金持ちからもっと税金をとるべきか」という古くて新しい演題なるテーマに対して、朝生レベルではなく世界的な4人の論客によるディベートを収録したのが本書である。

今、「朝生レベルではない」と書いたが、この4人は本当に一流の論客だ。

ポール・クルーグマンはノーベル賞を受賞した経済学者で、最も有名な「経済学の教科書」の書き手の一人でもある。
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ジョージ・パパンドレウはギリシャ経済危機の際にギリシャ首相を務めたギリシャを代表する政治家である。
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ニュート・ギングリッチは『タイム』誌のマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたこともある、アメリカを代表する保守派の政治家である。
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アーサー・ラッファーは減税派、もしくはサプライサイド経済学の著名な経済学者で、彼の名を冠した「ラッファー曲線」はその是非はともかく経済学の教科書に普通に乗っているレベルの概念である。
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こんな一流の論客がディベートするのだが、やはり彼らはそれぞれの「信条」というものがあり、かつディベートには(観客から見た)勝ち負けがあるため、意図的または無意識的な論点ずらしが幾つかあった。なので、どちらが優勢かというのはなかなか判断がしづらい(番組上は、金持ち増税に賛成の立場が勝利した)。なお、クルーグマンとパパンドレウは、金持ち増税に賛成の立場だ。「富裕層の税負担を増やしても経済に悪影響はない」「平等な社会を実現すべきだ」等の主張である。一方、ギングリッチとラッファーは金持ち増税に反対の立場だ。「頑張って成功した人からむしり取ってそうでない人に渡すような社会でいいのか」「増税しても、金持ちは賢い弁護士をやとって抜け道を探し出す」「増税の前に、抜け道の少ない税体系に変革すべきだ」「増税の前に、政府を改革して効率化するべきだ」等の主張である。

さて、以降は、本書を踏まえつつもわたしが最近「税」について気になっていることを書く。Wikipediaにはもう少し詳しく書かれているのだが、税の基本的かつ最大の機能は、わたしは「公共サービスの提供」に尽きると思う。軍事、国防、裁判、警察、消防、港や空港・道路・文化といった各種公共事業は、個人や会社レベルでは絶対に提供不可能か、不十分な形でしか提供できないものであり、みんなから薄く広く金を取り、「みんなのためのもの」を社会に還元する。そしてその次が「財産の再配分」である。

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ここで凄く気になっているのが、上記のWikipediaでも、財産の再配分ではなく、所得の再配分と書かれていることだ。わたしは、金を稼ぐことは善だと思うし、頑張って金を稼いだ人間が多くの税金を取られることはおかしいと思う。

長くなったので結論から書く。必要なのは2点で、1点目は「金融資産課税」だ。まず個人レベルでは、稼いだ人がお金を取られるのではなく、財産を持っている人が金を取られるべきだ。今のところ住宅に代表される固定資産は課税対象になっているものの、登記制度がほぼ崩壊しており、財産を持っているのにまともに税を取られていない人がたくさんいる。一方、わたしは保険にも入っておらず、普通預金以外の何の財産もない。けれど人よりも稼いでいるということで、稼いだ金の半分近くが取られていくのだ。おかしいよねと思う。

ついでに言うと、相続税も強化して良いと思うし、タックスヘイブンに代表される租税回避策も徹底的に潰すべきだろう。生まれた家が金持ちだというだけで、不労所得だけで食べていける人というのは絶滅させるべきだ。もちろん、税が究極にシンプル化・効率化すれば、AIの発達と連動して、いずれはベーシック・インカムが整備されていく。社会は「最小限の労働で(もしくは働かずに)不自由のない暮らしが保証される人間」と、「頑張って働くことで、その期間だけは時限的に上質な暮らしを勝ち取っていく人間」の2種類に分かれることになる。財産を持っている人間の税負担や相続税が強化されるわけだから、その一環として、家柄による教育格差もなくしていく。暮らしのレベルは、個人の能力と意欲と価値観の問題だけに収束させる。シンプルで良いだろう。

2点目は「電子マネー化」だ。あらゆるところで脱税・節税が横行しているが、逃げ道をなくすために最も有効な方法のひとつが、紙のお金を廃止して電子マネーにすることだ。そうすることで、ブラックマネーは一網打尽になるし、小売・飲食のピンハネもなくなる。そういうものがなくなれば、基本的な税率は、もっともっと低くできる。