辺見庸『もの食う人びと』

飽食の日本と飽食を享受する自分が嫌になり、1年以上かけて辺境を旅して、辺境の「もの食う人々」の生活を見て回り、自らもまた辺境の食い物を食べて、異界を体感する――といったアウトラインだろうか。少しニュアンスがズレているような気もするのだが、どうも上手く説明できないので、これくらいで勘弁。

誤解して欲しくはないのだが、本書は「辺境の食事は素朴だが経済大国日本が忘れかけている良さがある」といった甘ったれた本ではない。「素朴」といった生易しい言葉に収斂していくような現実は、もはやここにはない。著者は腐った残飯や放射能に汚染されたスープまで飲み食いしている。そしてそれすらも食べられずに死に絶える人々を目の当たりにするのだ。さらには刑務所や修道院の食事だって食うし、人魚(!)だって食ってしまう。そこには容赦が全くない。とことんまで過酷な「食」と「もの食う人々」の模様を著者は描くことで、生死と直結する食本来の姿を浮き彫りにしていくのである。

本書を読むと「粗食」や「じみめし」といったものがいかに傲慢な考え方であるかがわかるだろう。確かに「粗食」「じみめし」は飽食志向・グルメ志向の対抗(カウンター)としては有効かもしれない。しかし、あくまでもそれは裕福な高度経済社会であるがゆえに享受できる「粗食」であり「じみめし」なのだ。ブームに乗っかった「粗食」や「じみめし」の愛好家は、そのジレンマをどれだけ自覚し得ているのだろうか。必読。