歌田明弘『インターネットは未来を変えるか?――科学技術を読み解く』

2001年10月18日に読んだ『インターネットは未来を変えるか?――現代社会を読み解く』の姉妹編である。同時に発売された2冊を同時に購入したのだから(当然ながら)連続して読もうと思っていたのだが、部屋の中に埋もれて半年間ほど行方不明になっていた。

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本書のテーマは「情報技術」「生命科学」「死の技術」「宇宙」「SETI(地球外知的生命探査)」「インターネット」「反テクノロジー」「ナノテクノロジー」「ロボット」「ミレニアム」と多岐にわたり、それぞれの章は短いエッセイの積み重ねで重層的に構成されている。いやー、『インターネットは未来を変えるか?――現代社会を読み解く』もかなり面白いと思ったが、負けず劣らず本書もめちゃくちゃ面白い! 歌田明弘は非常に面白い論点を幾つも呈示してくれる。他の著作も探して買おうかなと思わせられる。

どれも興味深い内容だが、その中でも第七章の「反テクノロジー――テクノロジーの未来に抗して」がやはり白眉であろう。この章ではテロリスト・ユナボマーが取り上げられている。ユナボマーとは、モンタナ州の山中にこもりながら、科学技術を支えると彼が考えた人々に18年にわたって郵便爆弾を送り続け、そして犯行中止とひきかえにニューヨークタイムズとワシントンポストに反テクノロジーの声明文を発表させた爆弾魔であるが、面白いのは次の部分である。何と、近代科学技術を憎悪したユナボマーは、近代科学技術の象徴的存在であるインターネットに親しんでいる人々の間で何故か <英雄> として熱狂的な支持を集めているのである! なんたる逆説!

彼らの熱狂はサイバーワールドにとどまることなく、リアルワールドにおける反テクノロジー運動へと発展していったのだが、その運動の目的は「ユナボマーを大統領に!」というものだ。先の大統領選ではユナボマーに投票しようという運動を展開し、あろうことか選挙後には自動車のバンパー・ステッカーを作っているのである。反テクノロジー運動をしているのに「自動車のバンパー・ステッカー」だなんて! 歌田明弘の言うように、確かに「人を食っている」としか言いようがないが、彼らは大まじめなのだそうだ。実に逆説的で、興味深い現象ではある。

ちなみに、現在ユナボマーは捕まってしまっている。犯行中止とひきかえに掲載した声明文によって、弟に気づかれてしまったのだ。弟の通報によってユナボマーは捕まったが、アメリカお得意の司法取引によって、ユナボマーは死刑も仮釈放もない終身刑に処せられた。しかしユナボマーは、司法取引に応じたのは本意ではなく強いられたのであると不服を申し立て、「反テクノロジーの戦士」としての戦いを再開したらしい。「投獄は私にとって言いしれぬ屈辱であり、監獄にいるよりも死を躊躇せず選ぶ」とのことだ。うーん、何とも言えない刺激性と問題性を孕んでいると言えるだろう。