藤井孝一『週末起業』

独立開業や副業は注目の的である。しかし塾講師やガードマン・ウェイターといった時間を切り売りする副業では未来に繋がらないし、稼ぎも少ない。夢もない。かといって、いきなり起業するにはリスクが高すぎるし、今までのキャリアを捨てて飲食店やコンビニといったフランチャイズや雑貨屋をやるというのも、何となく違うような気がする、という人は多い。だから、これまで培ってきたキャリアや週末に取り組んできた趣味・特技を活かして、ひとまず今の仕事を続けつつ夜や週末限定で起業して様子を見る。本業を辞めても生活できるようになれば本格的に起業すれば良いし、独立できるほどでなくとも本業プラス副業の収入があるので生活はより安定する。また、たとえ本業を辞めるつもりがなかったとしても、可能性や人脈を広げるために週末起業は有効な方法である――というのが本書のアウトラインであろうか。

キャッチーな書名ということもあり、けっこう話題になっているようで、平積みにしている本屋も多い。主張もわかる。しかし前半の「だから週末起業は良い!」という論理は少し強引だと思う。週末の趣味レベルで起業して簡単に成功するとは思えないのに、あまり週末起業をローコスト・ローリスクだと持ち上げるのはどうだろうか。数万円から数十万円を週末起業でコンスタントに稼ごうと思えば、結局は多大な労力が必要だろう。そうなると(たとえローコストであっても)平日夜と休日を費やすことがローリスクともあまり思えない。そのため、週末起業を頑張った方が本業も頑張れる、という論理もピンと来ない。

無料では何万人もがメールマガジンやアダルトサイトを利用していても、有料となったら波が引くように人が去っていく。気軽に始めろと言うが、結局のところ、きちんとしたビジネスモデルや独創的なアイデア・品質・戦略・能力・投資の回収方法は必須であり、大半の人はそれらを持っていないのだ。それなら今の会社で頑張ったり転職先を探したりスキルを身につけたりする方が現実的だし、金が目的でないなら「趣味を深堀りしよう」で良いのでは? 最後に、まあ俺自身はサラリーマンが勤務時間外に何をしても本業に差し障りがなければ自由だと思うが、現状では8割の会社が副業を禁止しているのに「会社も大体は見て見ぬフリしてくれるよ」というノリも、何か釈然としない。