村上春樹+安西水丸『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』

基本的には「裸で家事をする主婦は正しいのか?」といった些細な事柄にこだわったエッセイが続く。もはや熟練の域と言っても良かろう。ただ、時々ハッとするような鋭いエッセイが、穏やかで冷静な筆致ながらも刺すように読み手の意識をえぐる。差別に無知だったことにより大事な人を無自覚に傷つけてしまったこと、作家としての矜持が生んだ(結果的に生んだかもしれない)1人の人間の死、マニュアルの裏側に透けて見えた傲慢な企業の姿勢――もちろん基本的には気の抜けたエッセイの本だが、読み飛ばすだけでは終わらない芯を秘めた本でもある。