五十棲剛史『営業引力の法則――何がお客さまを引きつけるのか?』

お客さまのニーズを聞いても、売上は上がらない――と著者は喝破する。というのも、お客さまは自分自身のニーズを正確に掴んでいないからだ。顧客は、自分自身のニーズを的確に掴んでいない状態では、いくらソリューションを提案されても、「何か違う」という感覚が拭えず契約に踏み切れないのだ。しかし、それでは一体どうすれば良いのか?

著者曰く、重要な点は顧客に無理に売り込まないことである。まずは雑談をして、続いて自分や自社の価値観を提示する。その過程で、営業マンは顧客の本当のニーズや潜在的なニーズを掘り起こし、顧客に価値を提案する。そうすることで「この人なら信用できそうだ」「この人に任せたい」と共感してもらう。つまり、あくまでも心のクロージング(営業マンへの価値観に共感して「あなたから買いたい」と思うこと)を経てから、書類のクロージング(契約)に持ち込む――それが本書の掲げる「アトラクティブ・セールス」のプロセスである。ニーズを正確に掴んでいない状態で無理に売り込んだって逃げるだけだし、価値観に共感してもらえないようでは本当のニーズを掘り起こすこともできないから、価値観に共感して「買いたい」と言わせられない顧客を深追いしても意味がない。その場合は深追いせずに他の顧客を探すべきなのである。売り込まないだの断るだのといった営業ノウハウ本は多く出ているが、本書もその流れを汲むものだろう。このアトラクティブ・セールスは著者の言うように特別なものではないが、具体的なツールやアクションプランまで落とし込んで説明している点は、参考になった。