荒俣宏『「歌枕」謎ときの旅』

「歌枕」謎ときの旅 (知恵の森文庫)

「歌枕」謎ときの旅 (知恵の森文庫)

「歌枕」とは、和歌に詠み込まれる名所や旧跡のことである。芭蕉や西行が歌を詠みながら名所を歩いていったことは、学校の教科書でもお馴染みであろう。しかし実際に歌枕にうたわれた名所や旧跡を訪れてみても、あまりピンと来ないことが多いようだ。歌から受ける文学的な印象と実際に訪れた実感がどうにもズレてしまっているのである。まあ、それはある程度やむを得ないことかもしれない。時が経てば色んな物事が変わる。
しかし本書ではさらに考えを進め、そもそも「歌枕にうたわれた土地は実在しない」という大胆な考えに至っている。詳細は本書に譲るが、歌人俳人が一体どのように歌を詠んでいたのかを本書と共に丁寧に紐解いていけば、確かにそれは特段に奇抜な考え方ではないような気もする。つまり本書は、実在しない名所や旧跡を訪れる旅なのである。
形容矛盾とも思える荒俣宏の行為は、幻想と現実が入り交じった、何かしら不思議な趣をまとう。歴史や和歌に詳しくない俺には、正直に言ってマニアックすぎて理解できない箇所も多かったが、非常に興味深い内容であることは確かだ。