『機動警察パトレイバー2 the Movie』

機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]

機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]

ロボット技術を応用した歩行式の作業機械「レイバー」が実用化された10年後の近未来を舞台とした、警察アニメーション(とはいえ2006年現在、既に本作の時代設定を追い抜いており、近未来ではなくパラレルワールドと言った方が無難)。初期OVAシリーズ→劇場版1『機動警察パトレイバー the Movie』→TVシリーズ→新OVAシリーズと続いてきたパトレイバーシリーズだが、本作では、今までずっと主役であった特車二課第二小隊の面々は、その多くが異動により第二小隊を離れており、もはや第二小隊の面々やパトレイバーは主役ではない。第二小隊隊長の後藤喜一と、今までは脇役であった第一小隊隊長の南雲しのぶが、物語を牽引する。
モチーフやテーマも、パトレイバーや青春ストーリーは奥に引っ込み、テロと情報操作によって戦争状態が「作り出された」東京――という、劇場版第1作よりもさらに押井守個人の主題が中心に据えられた構成となっている。1989年公開にしてOSの概念やコンピュータウィルスの脅威を取り上げた劇場版第1作にも驚かされたが、1993年公開にしてテロや情報操作の都市に与える脅威を主題的モチーフとした本作も、見事なまでに2006年現在のクリティカルトピックを先取りしている。人によっては、9.11やアルカイダの脅威を予見した思考実験とまで考える人もいるようだ。そこまで書くと少し言い過ぎかもしれないが、実際問題、劇場版第1作と本作の予見性と隙のない完璧な展開は、いわゆる「アニメ」の偏見的な先入観を打ち破るに充分な作品だと強く思う。
ただし、パトレイバーファンとしては、その「隙のなさ」に複雑な思いを抱くこともまた事実なのである。隙だらけだけど繊細で愛すべきキャラクターと、登場人物やアニメの作り手の「レイバー」に対する惜しみない愛情(もしくは愛着)、本作では排除されたこれらの魅力も、パトレイバーシリーズの大きな財産だと俺は思うからである。もう作られることはないかもしれないが、第二小隊の活躍がまた観たい気もするし、世界観と雰囲気を共有したパトレイバーの続編的作品が観たい気もする。