黒木亮『トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て』

ロンドンとトルコで繰り広げられる国際金融ビジネスを描いた小説。

主人公クラスの登場人物は2人いて、2人ともバンカーである。

1人は、都銀でエリートコースに乗せられてきた男。自分の属している銀行のスタンスに対して必ずしも納得しているわけではなく、また自己保身にうつつを抜かしているわけではなく、誠実に自分の仕事をやってきている。もう1人は、都銀でドサ回りを繰り返して実績を積んだ後に米国投資銀行でも実績を積み重ねている男。都銀(中でも自分の属してきた銀行)を蛇蝎の如く忌み嫌っており、この銀行をいつか自分の手でぶっ潰したいと思っている。努力もして成果も出してきた自分を10年間も潰し続け、飼い殺し続けたことに対する怨念である。和と誠実さを持つ男と、粘性の怨念を持っている男――いわば、どちらも日本的な人物である。

その2人が投資銀行業務という実にアメリカ的なビジネスでしのぎを削るという構図は、何とも言えない不思議な気持ちにさせる。しかし、内容自体は非常に刺激的だし、専門的な内容を確実に踏まえており、勉強にもなる。