小川一水『導きの星1 目覚めの大地』

導きの星〈1〉目覚めの大地 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)

導きの星〈1〉目覚めの大地 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)

地球のみが他の文明と接触できる高度な文明だったことが判明する遠未来で、シビリゼーション・オブザーバー(外文明観察官)に就任した辻本司(ツカサ)が、惑星オセアノに住む「リス」的な肉食の知的生命体であるスワリスとヒキュリジの発展を見守る――という設定のSF長編。
シビリゼーション・オブザーバーとは、保護・育成・非接触を信条に、まだ未成熟な外文明を適切に導く役割を持った公職である。もちろん人間の一生は短く、100年やそこらの人生で文明の発展を見守ることなどできはしない。ただし、そこはSF小説。詳細メカニズムは不明だが、文明の変わり目だけ仕事をして、それ以外の期間は原則冬眠する「減刻睡眠」というアイデアで解決している。これだと、起きているのは数十年から数百年に1回で、起きている時間も1回あたり数日から数十日程度となる。
そうなると、シビリゼーション・オブザーバーは「友達や親戚と時間的にも空間的にも離ればなれになるのでは」という疑問を持つかもしれない。実際のところ、シビリゼーション・オブザーバーは時間的にも空間的にも「行きっ放し」で二度と帰ってこられない職業である。したがって引退した老夫婦や愛する夫をなくした未亡人など、シビリゼーション・オブザーバーとしてやっていける境遇は限られている。ただし、主人公のツカサはまだ20歳になるかならないかという若造である。ここに今後の伏線がある。
ちなみに、シビリゼーション・オブザーバーが「いつ起きるべきか」は、一緒に働く目的人格(パーパソイド)が判断する。パーパソイド――いわゆるアンドロイドは、老いることも寝ることもないので、シビリゼーション・オブザーバーが寝ている間も、ずっと外文明の活動をウォッチできるのである。
まあシビリゼーション・オブザーバーの役割を「観察」「見守る」と書いたが、非接触の原則にもかかわらず、ツカサはまだ人生経験にも乏しいので、青臭いヒューマニズムに駆られて、ついつい外文明に過剰な干渉を行ってしまう。人間が“人間らしい”発想でベタな干渉を繰り返すからか、オセアノの文明の発展は地球とよく似てきている。
全4巻だが、第1巻となる本書では、狩猟採集時代(炎の発明)、金属器勃興時代、貿易航海時代が収録されている。
本屋に置いていることも少なく、はっきり言ってマイナーな作品だと思うが、これは面白い。村田蓮爾のイラストに惹かれた人はもちろん、そうでない方も、ぜひ読んでみるべきである。
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