近藤勝重『書くことが思いつかない人のための文章教室』

書くことが思いつかない人のための文章教室 (幻冬舎新書)

書くことが思いつかない人のための文章教室 (幻冬舎新書)

何かを表現したい、自身の人生や思考を形として残したいという欲求は多くの人が持っているようだ。しばらく前に自分史やら『マイブック』という何も書かれていない文庫本やらブログやらのブームがあり、少し前にはtwitterでつぶやきを残すというブームもあった。で、今はライフログというキーワードが再注目されている。EVERNOTEやらのクラウドサービスに、自分の日記やら写真やらメールやら仕事の書類やらを全て一元アップロードして、検索可能にするというコンセプトである。
俺は日記の類を書きたい・見知らぬ人に読んでもらいたい・記録したいという発想はほとんどないが(大して面白くもない生活しか送っていないからね)、もう10年以上、読んだ全て本のほとんど全ての読書記録をこのブログでつけて、検索可能な状態にしている。しかも最近ではその記録は漫画・DVD・ゲーム・雑誌といったものにまで増えており、今後はCDや再読本の記録は言うまでもなく、食事や運動の記録までつけようかとすら考えている。
ブログを開設したごく初期は「本の記録をつけたら読書量が増えるかもね」くらいの感覚しかなかったけれども、ブログを始めた3年後くらいからは「(アウトプットではなく)主観フィルターを通した人間のインプットの全記録が一人の人間そのもののデジタルデータ化とどの程度イコールになるか」という考え、というか疑問、というか思考実験がブログ継続のモチベーションになっている。10年以上続けた今となっては、これはもうライフワークと言って良い。
そういう人間からすると、つい「そもそも書くことが思いつかないなら書かなくて良いんじゃないか、それでも世界は回り、人生も回る、世は事もなし」と言ってしまいがちだが、そういう冷たいツッコミは本書に対してすべきではないだろう。著者は以下のように述べている。

  • みなさんは本当は書くべき内容をいっぱい持っているのです。
  • 書くことが身につけば、考える力も増していきます。
  • 書きつつ考え、考えつつ書くことで、脳は活性化します。
  • 書くって、しんどいと言えばしんどい作業です。でも書いたことで意外な発見があったり、人生の進路や生き方の再発見があったり、得られるものは貴重です。それに文句一つ言わずに自分を受け入れてくれるのは、文章のほかにそれほどたくさんはありません。

上記は素朴に過ぎる面もあるが、やはり真実を突いていると思う。人は書くことで救われ、また成長し、また苦悩する。まるで書くという行為は試行錯誤の人生そのものと言って良い。そのことを本書は暖かい筆致で教えてくれる。
なお、書かれたアドバイスそのものは、まあ普通である。しかしわかりやすいので、けっこう面白い。本書では「作文」という万人に馴染み深い(しかしけっこう難しい)ジャンルを対象にしているようで、学生の作文ややり取りを読むのも、なかなか参考になる。