- 作者: 山田詠美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/02/28
- メディア: 文庫
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(本書に限らず)山田詠美の物語における主人公の多くは、自己の欲望に忠実で、コミュニケーションに自覚的・作為的である。ついでに言うと大抵セックスにも自覚的である。最初そうでなくとも、自己の欲望に忠実に、コミュニケーションに自覚的・作為的になっていく。山田詠美にとってはそうなることが大人になることであり、成長であり、主人公の周囲の「魅力ある大人」も、そのような者として描かれる。
山田詠美は(おそらくずっと)このようにコミュニケートしてきたのかもしれないし、これが魅力的な女のモデルだと思っているのだろう。しかし私は山田詠美の描く登場人物の「コミュニケーションに対する自覚性・作為性」がどうしようもなく鼻持ちならないものとして映ることがあった。私は、人が通常ここまで自覚的・作為的にコミュニケートしているとは思えないからだ。だから山田詠美の小説の大部分は、読んでいる途中で投げ出してしまう羽目になった。そして20代と30代は山田詠美の小説をほとんど手に取ることもなかった。
しかし、普段はウザったいものでしかない山田詠美の「コミュニケーションに対する自覚性・作為性」も、それが「蝶々の纏足」や「風葬の教室」のように必然性を伴って描かれ得た時は、すなわち「こうしなきゃ私は死んでしまう」ってシチュエーションをきっちりと設定できた時は、胸を絞めつけられるような息苦しさの漂う優れた物語になる。
この本は改めて読んでも面白い。おすすめ。