今野敏『果断 隠蔽捜査2』

果断―隠蔽捜査2―(新潮文庫)

果断―隠蔽捜査2―(新潮文庫)

知人に紹介された隠蔽捜査シリーズの第2弾。面白いのでどんどん読んでいく。

続きモノなので初見の方のために概要を書いておくが、本作はいわゆる警察小説である。なので事件が発生して解決する推理ドラマと、警察組織の中でのドラマ、そして主人公の家庭内ドラマ、この3つのドラマが基本的に平行して走ることになる(最初の2つだけのこともある)。しかし本作は他の多くの警察小説と異なる点があり、主人公は警察官と言っても現場の刑事ではなく、キャリアである。警察官僚とも呼ばれる上層部のエリートなのである。さて、ここからはネタバレを含むので簡単に書くが、主人公は元々キャリアであることに大きな誇りと使命感を抱いており、順調に出世もしてきた。だが、自身の信条である「原理原則」にこだわった結果、1巻のラストで大森署の署長という降格人事を受けてしまう。しかし主人公は、独自のキャリア信条に忠実に、たとえ降格されても公のために働き続けるという選択をし、降格人事を受け入れる(通常は皆この時点で辞める)。そして降格先の大森署で、辣腕を振るい始めるのである。

さて、第2弾のモチーフは「発砲」である。警察官による発砲というのは、たとえそれが適正な場面で、適切な手続きを踏んだとしても、大きな問題となる。人権派が五月蝿いのだろう。わたしとしては、そんなに拳銃使用に問題があるなら、殺傷能力が低いゴム弾、麻酔銃、カラーボール、ネットランチャーなどを標準装備させてあげれば良いと思っている。

なお、ネットランチャーは商品名で、いわゆる蜘蛛の巣を発射するイメージに近い。
www.nippon-koki-marketing.com

アメリカでは最近実用化された遠隔拘束具も、日本で採用してほしい。
japanese.engadget.com

やや余談めいたが、実際にはこうしたアイテムは配備されておらず、人質を取って籠城した凶悪犯に対してはやはり狙撃と強行突入で対処するしかない場面も出てくる。

本作では、人質を取って籠城し、交渉を拒否する拳銃所持の犯人に対して、正規の手続きを踏んで発砲許可を行い、結果SATによる強行突入・銃撃戦・犯人射殺で事件は解決となる。しかし犯人の拳銃に弾丸が入っていなかったことから、SATが無抵抗の犯人を射殺したのではないかという問題が沸き起こってしまう。もちろん残弾数も調べ、まだ残っているという前提での動きだったのだが、実際の残弾数はどうしても憶測になる。それにここでの「問題」は必ずしも妥当性確認だけでなく、誰が責任を取るかとか、誰が越権行為をしたかとか、そういう下らない内部の縄張り争いの結果として「問題」とされているのである。わたしとしては「しゃらくせえ」としか言いようがないが、警察官は狭い世界なので、このような下らないことがどうしても大きな問題になってしまう。

いやー、ほんと面白い作品だ。