今野敏『棲月 隠蔽捜査7』

棲月―隠蔽捜査7―

棲月―隠蔽捜査7―

個人的に今ハマっている隠蔽捜査シリーズの第7弾。

第7弾は、サイバー犯罪。サイバー犯罪自体、本来的には所轄で取り扱うようなものではないのだが、大森署で発生した事件と大いに関連があるため、原理原則に則って主人公は越権行為的に捜査を強行する。そのことで毎度ながら警察組織内での軋轢を生んでしまうのだが、本人はどこ吹く風……と、このあたりはいつもの話である。

もうひとつ、降格人事を食らった主人公の「禊」が終わりに近づいてきたようで、異動の噂話が活発化する。普通は降格人事を食らったら辞めるのだが、降格されても淡々と成果を出し続けており、「禊」が終わったと判断されたようなのである。そうなると周囲は次の異動先が気になるわけだが、主人公はもはやある種「泰然」としており、異動先など殆ど気にもかけていない。この辺りの構図は非常に面白いなあ。

補足

続きモノなので以前に書いた本シリーズの紹介を、初見の方のために再掲しておく。

本作はいわゆる警察小説である。なので事件が発生して解決する推理ドラマと、警察組織の中でのドラマ、そして主人公の家庭内ドラマ、この3つのドラマが基本的に平行して走ることになる(最初の2つだけのこともある)。しかし本作は他の多くの警察小説と異なる点があり、主人公は警察官と言っても現場の刑事ではなく、キャリアである。警察官僚とも呼ばれる上層部のエリートなのである。さて、ここからはネタバレを含むので簡単に書くが、主人公は元々キャリアであることに大きな誇りと使命感を抱いており、順調に出世もしてきた。だが、自身の信条である「原理原則」にこだわった結果、1巻のラストで大森署の署長という降格人事を受けてしまう。しかし主人公は、独自のキャリア信条に忠実に、たとえ降格されても公のために働き続けるという選択をし、降格人事を受け入れる(通常は皆この時点で辞める)。そして降格先の大森署で、辣腕を振るい始めるのである。