
女性の視点で見直す人材育成――だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる
- 作者: 中原淳,トーマツイノベーション
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2018/08/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- ひとつは、サンプル数の問題。そもそもリーダーやマネージャーの役割を担っている女性が少ないという現状・問題意識があるから調査をしているのに、せいぜい数十名〜数百名の女性を対象とした調査では、十分なサンプル数を確保したとは言えない。
- もう一点は、「女性ならでは」の特性にかかる知見が十分に掘り下げられていないという点。女性ならではの特性を掘り下げるには、一見逆説的だが、十分な男性のサンプル数を用意し、男性と女性の比較をすることで、女性ならではの特性を炙り出す必要がある。
上記を踏まえ、本書の元となった調査は、男性約5,000名・女性約2,500名という世界最大レベルの大規模な調査をしている点が特徴だ。
非常に興味深い試みだと思う。
けど結果を読むと、正直そこまでしっくり来なかった。
そもそも女性2,500名が「スタッフ」「リーダー」「マネージャー」に分かれているが、例えば30代からマネージャーの人もいれば、50代でもスタッフの方がいて、それが本人の能力とキャリア観の双方を反映したものかどうか、が重要であろう。
具体的には、例えば「女性の方が働き続けたいと思う人が多いんです!」という結果が出ているのだが、そんなこと言われても、それって女性が真面目だということなのか、仕事に前向きだからなのか、配偶者の男性が既に稼いでいるから趣味もしくはお小遣いの源泉として働き続けたいということなのか、その辺がよくわからずピンと来ないのである。
男性だって結婚しているかどうかで「働き続けたいか」という問いと回答へのニュアンスは相当変わると思う。わたしは(ワーカホリックではないものの)基本的には働きたくて働いている独身男性である。だから、遠い親戚の遺産がある日突然10億円転がり込んできたらもちろん会社を辞めるだろうけど、ごく一般的な質問として今後も働き続けたいかと問われたら、当然「はい」と答えるだろう。一方、結婚して家庭を持った男性は「働きたくて働いている」なんてことは言ってられないだろう。生活や子供の将来のために、一定のお金を稼ぎ続けなければならない、つまり仕事を辞めたくても辞められない環境下で、「一家の大黒柱」として会社の文化や人間関係を否応なく受け入れて働いている男性は多いだろう。そういう人は、仮に以前は働くことが好きだと答えていたとしても、その状況下で働き続けたいかと問われると、「いや、早く荷物を下ろして楽になりたいよ」と答えるのではないか。そういった、個別事情とまでは言わなくても、属性別に細かく見ていく必要があると思う。
もう少し言うと、分析者は当然細かく見て色々と考えているだろうことはわたしにもわかるのだが、提示された結果として「男性」「女性」のジェンダーと「スタッフ」「リーダー」「マネージャー」の切り口だけで「女性の方が働き続けたいと思う人が多い」とだけパーンとブチ上げられても、凄くもやもやする、というのがわたしの言いたいことである。
今回は元データがあるわけでもないし、同僚に借りてササーッと読んだので、もしかしたら読み手であるわたしが正しく理解できていないかもしれない。ただ、少なくとも、そういう感想をわたしは持った。もちろん大規模調査の意義は凄く大きいと思うし、もう少し熟読すると、また感想が変わるかもしれない。買って読み直そうかな。