大湾秀雄『日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用』

日本の人事を科学する: 因果推論に基づくデータ活用

日本の人事を科学する: 因果推論に基づくデータ活用

  • 作者:大湾 秀雄
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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この本は、これまでに読んだ組織・人事関連の本の中で最も面白いもののひとつだ。

ひとつだけ取り上げてみたい。

 では、私たちは、どこに問題意識をもてば良いのでしょうか。その答えはいくつもあります。一つには、「統計的差別」の課題があります。統計的差別とは、男性よりも女性の離職率が平均的には高いがゆえに、企業側が女性への投資に慎重になることを指します。女性の方がより離職率が高いという統計的事実をもとに、合理的な意思決定を行っているのです。しかし、統計的差別というのは実は自己成就的です。「女性は辞める確率が高いから投資をしない」という企業の意思決定が、女性にとって継続就業の価値を下げ、離職を促しているわけです。

この手の自己成就的な、もっとベタに言うとマッチポンプ的な構造は男女差別に限らず至るところにあると思う。

例えば高齢者の処遇。年金だけでは暮らして行けないから多少は働きたいが、もう気力も体力も能力も枯渇したから新しいことを学ぶのは嫌だ、電球の取り替えぐらいしかできないしやりたくもない、という60歳の社員はかなり多い。一方、これまでバリバリ働いてきたし今後もまだ最前線で働ける、60歳という表面的な区切りで老人扱いされるのはたまらない、あるいは後進の育成に意欲を燃やしている、という60歳の社員も存在する。新たなことを更に学びながら働きたいという60歳の社員も当然いるだろう。

一般論的には「女性」と「若者」ばかりがクローズアップされるけれども、多様性を無視した話は至るところに存在する。