AIのカウンセリングというモチーフはなかなか珍しいように思え、興味深く読んだ。作品としては面白い。
けど展開は、ご都合主義と言うか、この世界では絶対そんなふうに考えないよなと思うところがあって、ちょっと違和感が強かった。例えば、主人公は「仕事を選ぶ自由がある」などと言っているが、この世界では労働やその対価としてのお金が消え失せて100年以上が経った世界である。仕事についてレストランで話すことすら少々緊張するような世界で、こんな発言をごく普通の主人公の口から出てくるかなって思う。
あと作中では、人間に寄せるべく脳の形をしたハードウェアでAIに思考させているという描写があってなるほどと思ったのだが、それなら母乳で育てられたわけでもなく、父母や祖父母がいるわけでも、学校や宿題があるわけでもないのに、まるで人間の幼児のような紋切り型のAIが登場するというのも納得感に乏しい。AIが照れ笑いをしてみせたり、ワーワー泣いてみたり、うつ病になってみたり、人見知りをしたりと、非常にご都合主義的な擬人化を果たしている。そんな筈ないだろうと思う。そもそも自己と他者の区別すら最初はついていなかったタイタンのようなAIに、本当に、人見知りのようなものが簡単に表れるだろうか? あと、生まれてこの方20年以上もタイタンと接してきた主人公が、アッサリとタイタンを人間と同一視し、人間を擬人化して通俗論的な感情移入をしている様も、何となく腹が立つ。
個人的には、主人公の腹立たしい上司という描かれ方をしているナレインの方がよほど親しみが持てる。