インキュベ日記

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村上龍『MISSING 失われているもの』

MISSING 失われているもの (村上龍電子本製作所)

MISSING 失われているもの (村上龍電子本製作所)

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 2020/03/18
  • メディア: Kindle版
村上龍の最新長編だが、色々な意味合いで、村上龍らしくないと言える小説である。

わたしは村上龍が大好きなのだが、村上龍にハマったきっかけは『コインロッカー・ベイビーズ』と『愛と幻想のファシズム』で、最も愛読するのは『五分後の世界』と『ヒュウガ・ウイルス 五分後の世界II』と『POST ポップアートのある部屋』だ。

しかしWikipediaをチェックしたところ、70〜90年代までの小説は大半を読んでいる。上で挙げたもの以外にも、デビュー作である『限りなく透明に近いブルー』から、『海の向こうで戦争が始まる』『コインロッカー・ベイビーズ』『だいじょうぶマイ・フレンド』『テニスボーイの憂鬱』『69 sixty nine』『ラッフルズホテル』『コックサッカーブルース』『超電導ナイトクラブ』『イビサ』『長崎オランダ村』『エクスタシー』『フィジーの小人』『音楽の海岸』『昭和歌謡大全集』『ピアッシング』『KYOKO』『メランコリア』『ラブ&ポップ トパーズII』『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』『オーディション』『イン ザ・ミソスープ』『ライン』『悲しき熱帯』『走れ!タカハシ』『ニューヨーク・シティ・マラソン』『トパーズ』『村上龍料理小説集』『恋はいつも未知なもの』『村上龍映画小説集』『ワイン一杯だけの真実』は読んでいた。

ja.wikipedia.org

思い返すと、これらを読書にハマってから1〜2年ほどで全て読んでいる。よほど影響を受けたのだと思う。70〜90年代で発表された小説の中では『368Y Par4 第2打』『ストレンジ・デイズ』『モニカ-音楽家の夢・小説家の物語(坂本龍一との共著)』『白鳥』は読んでいなかったが、村上龍について多少は喋ってもバチは当たらないぐらいは読んでいると思う。

わたしにとって村上龍の文章の特徴というか魅力は、目の前の圧倒的な現実を読み手の網膜に焼き付ける描写力だ。筆が乗ると非常に切迫感があり、映像そのものを流し込まれるような感じがある。

快感そのもの。

圧倒的な現実。

そうしたものを前にして、人はどうなるか?

村上龍はそうしたものを書き続けた人のような気がする。

しかし本書は違う。

抑制された文体。現実と虚構の境目が極めて曖昧で、目の前の圧倒的な現実はそこになく、夢を見させられているような感覚。ふわふわと定まらない情景。目の前の女・真理子は存在するかどうかすら曖昧だ。しかし少なくとも真理子の語る記憶と主人公の記憶には大きな齟齬がある。そして母についての記憶は繰り返し呼び起こされる。父についても。

これまでの村上龍を想像すると、確実に肩透かしを食らう。村上龍は70歳を前にして、新しいフェイズに突入したのかもしれない。